わな     2001.12.13 徳島新聞夕刊

 

 

すっかり有名になったウサマ・ビンラディン氏は、いったいどこに? 米国務長官だかが「枯れ草の山の中から一本の針を探すようなもの」と語ったが、けだし名言。

 

しかし、もし彼が自ら国連にでも出頭したらどうなるか? そしてもし彼の知人が「名乗り出た人物は偽者だ」と証言したらどうなるか? 誰が何の目的で仕掛けた「罠」なのか? こういう変わったシチュエーションから、推理劇は生まれるのだ。

 

「テロと報復爆撃の連鎖」みたいに血なまぐさくなくて、観客を思い切り楽しませる推理劇がいくつかある。今日はその中でも最高傑作の推理喜劇『罠』をご紹介しよう。

 

フランスのヒチコックと称されるロベール・トマ原作。本邦初演は1962年東京で、徳島では「五五の会」が87年に上演した。当時のマスコミは絶賛の渦。「カケ値なしの三重マル。息つかせずのジェット・コースター感覚」とか、「アッと驚くどんでん返しで、一挙にナゾが解けるばかりか、ちょっぴり哀切さの余韻も残すしゃれた芝居」など…。

 

これほどのセンセーションを巻き起こした「五五の会」というのは、俳優の山本学さんが80年に始めた私的プロデュース団体だ。かつて弟の圭さん、亘さんと三人での舞台もあった。

 

中でも「五五の会」の代表作が、この『罠』なのだ。私が見たのは前述の徳島公演。どんどん迷宮の世界に引き込まれ、ハラハラドキドキの連続だったことを覚えている。もちろん、罠を仕掛けた意外な真犯人も。でもそれは来年1月の県内公演までヒ・ミ・ツ。

 

舞台美術の第一人者、妹尾河童さんが書いている。「学さんが夜中に届けてくれた台本を読み始めたら、面白くて続けて二度読んだ。二回目は話が割れているのに、さらに面白く読めたのに驚いた」と。

 

で、学さんからの依頼電話に「や、やります。いや、やらせてください!」。「罠にかかった河童」という一文にある。そして、語り草の見事なセットが生まれた。がっしりした山荘と窓外のアルプスの山々が、今も目に焼きついている。

 

詳しいストーリーは省くが、冒頭のビンラディン氏を「失踪後に帰還した人妻」、知人を「その夫」に置き換えれば…それがヒント。予期せぬ「罠」にかからないようご用心、ご用心。

 

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