シェイクスピア1999.6.15 徳島新聞夕刊 

 

 

その名前に「沙翁」と当て字された時代から、この世界的な文豪の作品は、どれだけ多くの人々に親しまれてきたことだろう。私は文学青年でもなかったから、もちろん全37作品に接したわけじゃないが、それでも子供のころから、『ベニスの商人』の憎々しげなシャイロックをやりこめる裁判や、悩める『ハムレット』と可憐なオフィーリアをよく覚えている。

 

ここ30年は、もっぱら映画と演劇でシェイクスピアを楽しんできた。『ハムレット』では、ロシアものの骨太さに魅かれ、山本圭・佐藤オリエの名コンビ(俳優座公演)や、ちょっと太目の江守徹(文学座)らに拍手を贈った。400年前と同様の、ごく簡素な衣装とセットの『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア・シアター)の斬新さに目を見張ったし、男優ばかりで演じた『お気に召すまま』(俳優座)には腹を抱えた。ストーリーキングが舞台を突っ切った『真夏の夜の夢』(東京演劇アンサンブル)に唖然とし、ロック調の音楽と鮮烈な照明効果の日露合同公演『ロミオとジュリエット』に魂を激しく揺さぶられた。ロミジュリ関連では、数年前のディカプリオや昔のオリビア・フッセー?の映画や、翻案の『ウエストサイド物語』が懐かしい。真新しい俳優座劇場で、『ヘンリー六世』三部作を一日で見た体力勝負もあったっけ。近くには、仲代達矢の『リチャード三世』が、やはり圧巻だった…。

 

さて、近々見られるのは、ロマンティック・コメディ『十二夜』だ。舞台では四度目になる。双子の兄妹が難破・漂着した国でのお話。身を守るために男装した妹に、お姫様が一目ぼれ。その姫君に横恋慕している執事を、かの平幹二朗が演じる。偽ラブレターでコケにされる滑稽で重要な役だ。生涯をかけてシェイクスピア全作品に挑戦中の平だが、その喜劇は初めてとか。実力も個性も豊かな俳優陣が共演する恋愛喜劇で思いきりリフレッシュしたい。県内での公演は、来月一週間。映画『恋に落ちたシェイクスピア』を見た人にも、そうでない人にもお勧めしたい。

 

最後に、覚えて何の得にもならない雑学を二つ三つ。52歳の誕生日に酒を飲みすぎて死んだ沙翁さんは、夫婦仲が良くなかったらしい。遺言には「妻に二番目に良いベッドを与える」とあり、結局同じ墓には入っていない。その年上女房の名は、ハザウェイ(八歳上)…。息子の名がハムネット。

 

駄じゃれついでにもう一つ。さまざまな死や殺人を描いた彼だけに?生まれたのは1564年で、死んだのは1616年。合わせてヒトゴロシ・イロイロ。

 

さあ、もうこれであなたは、シェイクスピアの「生没年」を忘れられなくなった…。

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