キュリー夫人2004.2.13掲載 徳島新聞

 

 

 市民劇場の集まりで、すてきな再婚カップルと出会った。しかも二組。いずれも60代だ。幸せのおすそわけという意味で固有名詞を出すが、夫を病気で亡くした三沢さんは、阪神大震災で妻を失った浜口さんと再婚。また、なれそめを聞きもらした、林さんと坂東さん「夫婦」は、新婚ムードいっぱい。入籍の有無や夫婦別姓を選択したのかどうかはどうでもいいけど、誰もがうらやみ、思わず拍手したくなる雰囲気に溢れていた。

 

 いつだって仲のよいカップルを見るのは心が洗われ、元気づけられる。その時の集まりは、三月に県下で上演される演劇の運営打ち合わせ会だった。文化ボランティアの集いだけに、「結婚したのはボランティア精神からですよ」という「おのろけ」でいっそう盛り上がった。ただ、私が格別に感動したのは、今度の舞台『キュリー夫人』の中心テーマが「夫婦愛」だからかもしれない。

 

 黒柳徹子さん扮するマリーと、青年劇場のベテラン・千賀拓夫さんのピエールとの爽やかな愛情物語だ。パリの粗末な研究室で出会った二人はたちまち恋に落ちる。後に夫の交通事故で死別するのだが、二人の結婚生活は貧しくても幸せいっぱいだった。夫妻でノーベル賞を受け世界に羽ばたくまでを描くこの舞台は、すでに全国で上演され、単なる偉人伝ではないという高い評価が定着している。私は数年前に観た。亡き飯沢匡さんが「気品と喜劇性を併せ持つ女優」と形容した黒柳さんの軽妙洒脱な演技は、けだし見ものだ。

 

 彼女の世界中をかけめぐる「人道支援」ぶりもつとに有名だが、キュリー夫妻の類いまれな無私無欲の活動と功績はまた強く胸を打つ。ウラン鉱石からラジウムを発見し、放射線治療や20世紀の原子力・核の時代を切り開いた女性で、ノーベル賞を二度も、そして娘までもが受賞したことは、偉人伝が好きではなかった私にさえ子供のころから記憶に残っている。

 

 「放射線は病気の治療に使うのでしょ。そこにつけこむなんてできません」と特許を取らなかったし、国や企業に無償で詳細なデータを提供したそうだ。普通ならとても考えられないことで、もし特許を取っていたら彼女の儲けは「日亜化学」どころではなく、天文学的な資産を築いていただろう。そして、庶民が「キュリー治療」の恩恵を受ける時代になってはいなかったはずだ。

 

互いに尊敬しあい励ましあい、理解しあい愛し合ったキュリー夫妻の話は、殺伐とした現代にこそふさわしい気がする。そして、共に観劇する先の熟年カップルの愛も、ますます深まる気がするのだ。

 

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