枯れすすき 1998.12.14 徳島新聞夕刊「視点」 

 

  

当初は、数年もすれば廃れるだろうと思われていたカラオケだが、消えるどころか完全に定着した。スナックでは相変わらず、主要な接客手段だし、同好会も活発だ、私ももちろん嫌いではないが、飲むときはどちらかといえば話をするほうが好きなので、レパートリーが一向に増えない。なにせ、最も新しく覚えたのが十年以上も前の、そろそろナツメロになる「ブランデー・グラス」というしだい。

 

それに引き換え(最近の若者と違い)知っている童謡のなんと多いこと。七つの子、赤い靴、十五夜お月さん、青い眼の人形、ウサギのダンス、しゃぼん玉、証城寺の狸ばやし、こがね虫…。団塊世代あたりから上の人なら、誰もが幼い頃に覚えた「名曲」だ。だから今でもふと口ずさむ。

 

ところで、これらがすべて「野口雨情・作詞」だと分かった時には、まったく、その多作ぶりに驚いた。童謡界を三分した北原白秋や西条八十と同じく、作詞家の名を知らなくても、これらの歌に触れたことのない人は皆無だろう。

 

雨情は言っている。「作者の名なんかどうなろうと、作った歌がみんなに愛され歌われたら、もうそれだけで本望でやんす」と…。銅像なんかを残したがる「名士」と比べてなんと謙虚、なんと無欲なことか。

 

「国民や市民の意思なんかどうであろうと、作った消費税や可動堰が落ち着けば、それで本望でやんす」なんてことを言う「名士」がもしいたら、野口雨情の歌と心を紹介したいほどだ。

 

天才詩人の雨情には、童謡のほかに、カラオケでも歌われる「船頭小唄」という流行歌もある。♪おれは河原の枯れすすき〜、というアレ。森繁さんも歌っていた。ほとんど収入が無く身も心もボロボロに枯れ、虚無的な歌詞を書かずにいられなかった雨情が、これを発表したのは1919年(大正8年)。株式暴落、世界恐慌、原敬首相暗殺など不安定で灰色の世相と相まって大ヒットした。

 

当時と時代が似ているからか?最近の舞台『枯れすすき』もヒット中だ。雨情の反省を叙情的に描き余韻が残る作品。既に全国で200ステージを越え、広島や岡山など各地で「市民劇場賞」を受けている。主演の篠田三郎さんは、とても感じのいい人で、地に近い適役だと思う。映画監督の新藤兼人・台本、神山征二郎・演出、森進一の主題歌も話題のネタ。

 

来月には徳島でも上演されるので、「♪どうせ〜庶民はこの世では〜、花の咲かない枯れすすき〜」という重い気分を、カラオケヤ先日の「住民投票」のように、楽しい観劇で吹き飛ばそうではないか。

          

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