ジョセフィン 20021116 徳島新聞夕刊 

 

 

かつて、「違いがわかる男の○○」というCMがあった。ちょっとだけ?鈍感な私でも、色がよく似た「コーヒーとコーラ」の違いは絶対わかるし、響きがよく似た「カルボナーラとボラギノール」の区別もつく。ただ、「レビューにデビュー」の駄じゃれは理解できても「ミュージカルと音楽劇」の区別はつきにくい。歌唱ではなく台詞でストーリーを紡ぐのを一応「音楽劇」と呼ぶようだが、その楽しさに違いはない。

 

来月、阿南・鳴門・徳島の三市で上演される『ジョセフィン』は、音楽劇の傑作だ。主演の前田美波里さんは、私より一つか二つ年上なのにスタイル抜群。あの伝説的な歌手、ジョセフィン・ベーカーを熱演する。野性的に、ゴージャスに、コミカルに、エレガントに…変幻自在。三十回も衣装を変えながら見事な歌とダンスで観客を魅了する姿は、1930年代の芸術の都・パリやベルリンで活躍した大スター・ジョセフィンとぴったり重なり、まさに適役。『ベルバラ』の初代オスカル、『風と共に去りぬ』レット・バドラーで知られる榛名由梨さんの共演も、長い宝塚ファンにはたまらないだろう。

 

数多い華やかなレビュー・シーンはけだし必見ものだが、この「音楽劇」の核心はジャズ・クレオパトラとも呼ばれたジョセフィンの類まれな強い生き方にある。

 

アメリカの黒人スラム街で生まれた彼女は、貧困と人種差別の厚い壁を乗り越え、持ち前のバイタリティーと魅惑の個性を開花させ、「ヨーロッパのアイドル」「琥珀の女王」になるのだ。彼女の前に、しかし今度はヒトラー・ナチスが立ちはだかる。第二次大戦の疾風怒濤に巻き込まれ、命がけのレジスタンス運動…。戦線慰問を続ける彼女は「ジープに乗ったヴィーナス」と慕われ、その危険な活動ゆえに誤った死亡記事が出るほどだった。

 

やがて終戦。あいかわらずの愛と活力が全身に充ちていたジョセフィンは、五番目の?夫と協力し、戦争被害者ともいえる孤児たちを救う運動を始める。郊外の古城を買い取り、人種や肌の色の違う十二人の子供たちを養子にするのだ。その中には日本人もいたと聞く。豊かな自然の中に、世界中の子供たちを集めて「虹の一族」という理想郷をつくろうと奔走するが…。

 

夢を追い続けて二十世紀を全力で駆け抜けたその姿は、真に魅力的だ。彼女の国葬には、二十万人もが参列したという。今ごろ「違いのわかる男」なんて粋がっていたら、恥ずかしいに違いない。

 

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徳島市民劇場機関紙「まくあい」より

 

 夢を追い続ける生涯って素敵なことだ。そういう先人のことを知るたびに、私はいつも鼓舞激励される。

 

 ジョセフィン・ベーカーもまた、賞賛の拍手を送りたい一人。女性であること、貧しいこと、黒人であったことで、彼女はことさら艱難辛苦を体験した。しかし、厚い壁に挑み続け、才能を開花させ、見事に動乱の世紀を生き抜いた。

 

 戦後の「孤児の楽園=夢の一族」つくりこそ夢半ばで終わるが…「私の夢を笑うなら、私みたいな夢を持たず努力もしなかった人を笑いなさいよ」という台詞は、特に胸に沁みる。

 

 同じ孤児救済運動に献身した「サンダース・ホーム」の澤田美樹さんも登場するし、数多い華麗なレビュー・シーンと共に見どころは多い。私たちは果たして生涯の夢を持っているのか、自問しつつ堪能したい。()