映画も舞台も 2001.1.17 徳島新聞

 

 

続々と制作される映画や舞台劇。本数も観客人口も断然映画の方が多いのだが、同じ原作から両方つくられるケースはかなりある。会員制の演劇鑑賞会「市民劇場」の40年・250本の舞台の中だけでも、観劇の前や後に映画やビデオでも楽しめた作品が50本はある。最近はやりの大掛かりなSFX大作は映画の独壇場ながら、人間や歴史の表裏を細やかに描き現代社会の陰陽を浮き彫りにする作品は舞台化に適しているようだ。

 

古くは「キューポラのある街」「忍びの者」「土」「蟹工船」…。これらは東京芸術座文化座の舞台。映画では、吉永小百合や市川雷蔵らの若々しい姿が印象深い。「橋のない川」は部落差別の問題を、「母」は小林多喜二一家の家族愛を真正面から描いた。「飢餓海峡」「五番町夕霧楼」は、高倉健・三国連太郎ら、舞台では太地喜和子が熱演した。田中絹代と栗原小巻の「サンダカン八番娼館」は、鈴木光枝・佐々木愛母娘共演でも再演を重ねた。若き特攻隊員の悲劇「月光の夏」は、その美しいピアノ曲が心にしみて感涙にむせんだものだ。昨年の「華岡青洲の妻」「欲望という名の電車」も見応えがあった。

 

しかしながら、やはりシェークスピアの悲喜劇がダントツに多くて十指にあまる。ハムレット・真夏の夜の夢・お気に召すまま・じゃじゃ馬ならし・十二夜…。平幹二朗が来演する来年の「リア王」は、黒澤映画で「乱」に翻案されたっけ。

 

最近ではニール・サイモン作品が人気で、その脚本の大半が映画&演劇になっている。今年も新年早々に彼の原作舞台が二本続く。三月に加藤健一事務所が公演する「銀幕の向うに」は父と娘の絆を描く感動喜劇。これはかって「私は女優志願」などのタイトルでいく度か映画になった。

 

二月に上演される「アパートの鍵貸します」も、お薦めの娯楽作品だ。出世のため自分の部屋を上司の情事に貸す青年の恋物語。ジャック・レモンとシャーリー・マクレーンが好演した名画を記憶されている方も多いだろう。二月の舞台は曽我泰久と石野真子コンビのミュージカルだ。

 

こうして、かつての名作映画に生の舞台で再会できるのはとてもうれしいことだ。それぞれの良さが増幅され、感動や思い出が深まる。だからこれからは、ずいぶん前に読んだ小説を映画・舞台の両方で堪能する人が増えるかも。私もとりあえずは、映画「アパートの鍵貸します」のビデオを見直し、二月に生演奏のミュージカル版を楽しもうと思っている。

 

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