愛が聞こえます1998.6.19徳島新聞夕刊
フランスから「愛」が聞こえてきた。W杯サッカー初戦。惜敗した日本チームの健闘ぶりだけではなく、サポーターの応援態度、その「フェア・プレー」ぶりに対して共感と賛美が送られている。非常にサンパ(感じがいい)と。うれしくて誇らしいことだ。
あわせて耳に残っているのが「翼をください」の大合唱。確かに聞くほどに心が浄化され元気が出る歌で、日本チームの応援歌になったことも納得できる。自由・夢・気力・愛・勝利への願いを高らかに伸びやかに歌っているのだから。
「翼…」といえば、ジェームス・三木さん原作の同名の舞台もあって、徳島でも昨年は県費助成を活用しての高校公演で、県内の半数以上の高校生が鑑賞した。授業だけでは得られない、全身の震えるような感動が広がったと聞く。「行政の価値ある得点」と感心していたら、今年は「芸術鑑賞」を助成する制度が心なき審判から「退場」させられたそうだ。ひどく残念に思う。スポーツを含めて、さわやかな「感動」は、すべての人の心を優しく強く豊かにさせるのに…。
だから誰もが感動できる演劇の一つ、来月県内で上演される『愛が聞こえます』をご紹介しよう。
東京下町のある喫茶店が舞台で、そこには肢体不自由・脳性まひ・知的障害の仲間たちが集う。子どもの時に聴覚を失った娘・瞳と、その恋人で松葉杖が手放せない青年・清次が主人公で、この二人の恋愛と結婚を主軸にドラマは進行する。
瞳の母親が交通事故にあい、その加害者であるサラリーマンが、障害を持つ人々の「明るさ・短気・気さくさ・ひがみ・はつらつさ」に触れるなかで、障害者を見る目がどんどん変わっていく…。彼は、聴者である私たちそのものとして登場するのだ。
というあらすじを聞けば、生真面目で重い舞台を想像しがちだが、まったく違う。作者の高橋正圀さんは売れっ子のシナリオ・ライターで、師でもある山田洋次さんと作風が似ている。笑いがふんだんにあり、時々ジ〜ンとこさせてホロリとさせるのが特徴だ。農村での遺産相続にまつわる悲喜劇『遺産らぷそでぃ』が、数年前に徳島の舞台にも乗った。
今回の作品には、車いすの故障を装って若い女性と知り合いになろうとする若者やら、いろんな障害者が登場して笑わせてくれる。思いを作者が語っている。「気の毒な人なんだから笑ってはいけない」のだろうか。障害を笑うのは論外だが、特別な人間としては描きたくない、と。腰の引けたスタンスでは逆に差別になりかねない、と。
愛がいっぱいの内容を知るほどに、私もできればこんな店でジョッキ片手に彼らといっしょにテレビ観戦したいと思えてくるのだ。ガンバレ、ニッポン! ガンバレ、みんな!