|
夢見るリヴァイアサン エピローグ
人間として生まれて死んでいくのも、悪い事じゃないさ。永遠の寿命があったとしても、 ただ一人の人さえ救えないのなら無いに等しいものだから。 美しかった十河の国も、今はその面影すらない。 人々の信仰心の薄れが、国の滅亡を意味するのか。
蒼い月が上り初める時期が来たから、目を覚まして歩きはじめる。 幾度、生まれ変わったら君にたどりつけるんだろう。 龍神としての力の無くなった僕には、業を断ち切る事は出来ない。 生まれ変わった時代で、君を見つける度にすれ違う。 長い眠りにつく龍神だったあの時の僕。あんまり長い時間一人だったから 君の優しさに触れた瞬間に何かが変わった。 訪れる者も誰もいなかったあの場所で、突然聞こえた君の声が それまで眠っていた僕の心を揺り起こしてくれた。
僕が龍神として生まれた頃の十河は美しかった。まだ、この星に神話が存在していた頃。 美しい美の女神の微笑が、世界を照らす。 太陽の神が、天馬に乗って1日の始まりを告げ、農業の神が季節の作物の狩り入れを知らせる。 月の女神が、夜を知らせると人々は1日の疲れをとるために休む。
青い空をゆっくりと、地上を見下ろして飛んでいるのは好きだった。 遠くから吹いてきた風の声が、いろんな話を聞かせてくれた。 海に沈んだ宝船の最後、新しい命が生まれた瞬間を。 美しい花嫁が流す涙にそっと風が触れた事。 僕は、この十河が本当に好きだった。この星全てを愛していた。
君の人生の短さを、君が嘆いている事を僕は知っていた。 僕の寿命と比べて、悲しむ心がいつも僕の元へ届いてきた。 それを愛と人が呼ぶ事も。 君がこの世から去ったあの日、僕の中で何かが音を立てて壊れていった。 君が望むのなら、その願いを叶える事くらいは僕にも出来た。 龍の魂を、天の神の元に返す事。それと引き換えに、短命な人間の 命をもらい、回る運命の輪を手繰りよせるために歩きだす。
君と云う存在を、ずっと心で感じていたかった。 永遠の命を君にやりたかった、一人で生きるのに慣れ過ぎていた僕の弱さ。 君を捜して、時の旅を続けるのも悪くはないさ。 何度生まれ変わっても、想いは残って空間をさ迷う。
…人と云う存在は、永遠に似ているのかもしれない…
|