光の春
私の覚えてる一番古い記憶が、あなたの笑顔だった。
気がつくとあなたの後ろばかり追いかけてた、子供の頃の私。
追いかけても、追いつくはずのない永遠の鬼ごっこ。
わざと、転んでつかまってくれてたんだよね、いつも。
真夏の暑い夏休み、祖母の家に預けられる私達姉妹と自然に仲良く
なっていた幼馴染達の中のあなただけを、私は見ていた。
なんで、あなたじゃなきゃだめだったのかな。
子供の頃の時間は、あっという間に過ぎていく物。
2人で何枚も何枚も、あなたの描いた素描画に
水彩絵の具で色をつけたよね。
モノクロの世界が色鮮やかな世界に変わっていく
薄青、薄墨、薄若葉色、何故か溶けて消えてしまいそうな色ばかりを
選んで色を付けてたね。2人とも同じ感覚だったのかもしれないね。
もう、あんな風にはしゃぐ事もなくなったけど、こうしてそばにいてくれる
あなたが居てくれるのが、ただ嬉しかった。
例え、それが私の両親からの願いだったとしても。
息が苦しくなる時間が増えていく。主治医からの処方箋の枚数が増えていった。
自分の足で歩ける時間の大切さを、あなたの時間を奪う事で、私は覚えて行った。
海が見たかったから、最後のわがままのつもりであなたを誘う。
二人で歩いた砂の上の足跡。波が消してしまわないように届かない所を選んで歩いた。
知ってた?
私が一番春が好きなのは、あなたが春を好きだからって事を。
あの舞い散る桜の儚さに、あなたが命の尊さを見い出してたから。
知らなかったでしょ? 私が、あなたの動き一つ一つにあなたの心の変化を見てた事を。
だから、毎年春に私の入る病室は、桜の木の見える窓際を選んでいた。
私もあの桜の花のように消えてしまいたかった。
あなたが、好きな花の下で・・・
いつか、誰かの事を好きになっても。
その記憶の片隅になる日が来ても・・・
桜の花が咲く季節の間だけでも、私の事を思い出してね。
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
西行