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     この夜の中で

 

 夜中に、そっと家を抜け出して散歩をするのが好きだった。

人通りの減った通りの真ん中を、ポケットに手をつっこんでブラブラと歩く。

肌寒い風が後ろを追いかけてくる。暖かい缶コーヒーを自販機で買う。

冷たくなりかけた手にその温もりが心地良くて。

 「綺麗・・・」

 思わずつぶやく。角を曲がって目に飛びこんできたのは、

誰かの庭に植えられたモミの木に、金色に輝くイルミネーションが煌めいていたから。

 「そっか、もうすぐクリスマスだものね、忙しかったから忘れてた」

その前で立ち止まって、じっと点滅を繰り返すのを見入っていた。

 

 誰かのために飾られたのだろうか?道行く人の目を楽しませてくれるその灯り。

誰もいない通りの中で、ここだけが暖かく感じられた。

  「明日も頑張ろうっと」

自分に言い聞かすようにつぶやく。

頑張れそうな気がした。

嫌な事だって解決しなければいけない問題はたくさん抱えているけれど。

大丈夫な自分の姿が見えた気がした。背筋を伸ばして歩いていく姿が。