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Rain Dance
手を宙に向けて、差し出してみる。 雨が掌の中に、跳ねをあげて踊りはじめる。 いつだって、雨は誰の上にも平等に降り注いでくれるから、僕は雨の日は 唯、あてもなく街の中をさ迷うのが好きだった。 優しく肩を抱くように、時には冷たく心を凍らせるように。 秋の雨は、一雨ごとに冬を連れてくると云う。 …肩を濡らすと風邪を引くから… もう心配してくれる人は、ここにはいないから。 雨に濡れて歩くのを、誰かに止めて欲しがっているのかもしれないな。 ふと、自分の子供加減さに一笑しながら、雨をぼんやり見ていた。 雨の粒が、頬を伝って落ちていくのを、拭いもせずにずっと立ち尽くしていた。 冷たい雨が、肩を濡らしても誰も振り返る人はいないから。 ガードレールに腰掛けて跳ねる車の水飛沫が、通り過ぎる傘のレインコート姿の 人の足元に跳ね上げていくのを見ていた。 金木犀の香りが、うっすらと風に運ばれてやってくる。 …秋の香りがしてる… 小さな声が、心の中に何度も響く。 一番好きだった秋が、一番嫌いな季節に変わったのは1年前の事。 君が、ここから消えていったあの秋の日を僕は忘れないし、同時に為す術のない 僕自身を憎んだ。仕方ないのは解っていたし、君が頑張って生きていた事を誇りに 思ってる。あの日の瞳が忘れられなくて、あの日のまま成長出来ずに 立ち止まったままで、何かを置き忘れてきてる自分に気付く。
雨が、肩を濡らしてないのに気付き、上を見上げた。 「まだ、ここにいるんだ」
「……お前もだろう」 「突然だったもんな、あれから1年か… みんな、離れ離れになってこの街に残ってるのは、お前だけだもんな」 「新しい学校と、生活に慣れていける奴はいいよ」 「いつまでも、そのままじゃ、あいつが泣くぞ」 「解ってるよ、でも、今日くらいは…」 ぼんやりと、二人で並んで車の流れを見ていた。 「俺も濡れて歩こうかな」 突然そう言うと、達也は傘を閉じてしまった。 「たまには、お前に付き合うよ。明日、東京に戻るから」 去年の秋に幼馴染で親友の守を僕は失くしてしまった。いやっ、僕らは…だった。 高校卒業と同時に、みんなバラバラになっていく。それが、当たり前の事なのに。 雨が、段々小降りになっていく、夕闇へと時刻は変わっていく。 「1回、帰ってくる、すぐ行くから、じゃっ」 「透…」 「んっ? 」 「いやっ、家で待ってるから」 軽く手を振って、ずっと伸びる坂道を僕は走り出した。 振り返って見えるのは、遠くに見える青い海。 君が好きだったあの波止場が見える。 逝くのにはまだ早すぎた。 ずっとそばに居過ぎた僕には、まだ君の死を受け止めきれずに何かを待っている。 子供の頃からずっとそばにいて一番心に近い存在だった。 何もしてあげれなくてごめんよ。夢だけはいっぱいあっていつも笑ってた君を。 ずっと忘れないから、僕と一緒に君も大人になっていけばいいよ。僕の心の中で。 |