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月の心
ずっと何かを探してる気がしてる。 時々、淋しくて泣きそうな気がして、訳もなく涙が込み上げてくる。 それは、夕暮れ時の感傷がそんな気分を呼んだり、真夜中の静寂が一人ぼっちの時間を 余計に孤独に感じさせたりするのかもしれない。 時々、夢を見たりする。ずっと待っていた優しい手をしている誰かが笑っている。 夢の中を、誰かを探して走っている。やっと、追いついたその瞬間に目が覚める。 もう二度と逢えなくなるのを予感した別れの夢からずっと探してる。 握りしめた手の冷たさを、今も心で覚えてる。 もう二度と… … もう一度は絶対ないって事を。 目を閉じて訪れる日毎の闇を、夢の廻間を歩き続ける。 誰かをずっと探してる。二度とは逢えないと解っているのに。
「なんで、また同じ夢を見るんだろう」 もう何度も訪ねてる坂の下にある街。何度も歩いた駅からのなだらかな道。 この世には現存するはずのない、子供が頭の中で組み立てたような街の見取り図。 長い長いエスカレーターが続く、やがて見えてくるお伽の国。 多分、待っているのは子供の頃の姿の…。 あの夢の瞬間から、ずっと探してる過去を遡ってずっと探してる。
「ここじゃない、ここでもない、ここも違う」 どれ位歩いていけば、辿りつけるんだろう。夢の中でも何度も陽が沈んで、月が昇り 同じように時間は過ぎていく。 冷たい泉が静かに月を捕らえて映し出してる。 その水面に疲れた爪先をつけて、歪む月を眺めて溜め息をつく。 夢なのに、この現実感は一体何なのだろう。水を冷たいと感じ、通り過ぎる風の涼しさを 肩に受けて、疲労感さえこの身体に残る。 「一体、誰を探しているの? 」 歩けれる内は、何処までだって何時までだって。 漠然としない望みだったけれど、歩いている間は何かに向かっているんだ言う見えない 目的が私を支えていてくれるから。 誰一人知った顔のいないバザールに辿り着いた。 何処からか聞こえてくるリュートの音色。その音に惹かれるままに足を運ばせる。 誰もいない空間から音だけが聞こえてくる。 心に残るような懐かしい音色が、疲れた心を和らげてくれる。 少しだけ休んでいいよと肩を押されたような気がした。 振り返ると銀色の月が又、空に浮かび上がってこの世界を照らす。 明日も又、歩いていく私の姿を心に浮かべて。
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