── そこにもうその姿はないのに

     どこにも存在していない者になってしまった ──





「知ってた? あたしが本当は死にたがってたって」

 「知ってたよ」

ふわりとした微笑を浮かべて、君は小さく頷いて見せた。

 「いつからかな、ずっとあたしの中に死への憧れって言うか、

 ううん、憧れではないわね、それはもう私と同化してしまっていたから」

言葉を選ぶように、ぽつりぽつりと君の言葉は続く。  





 「生まれてくるのを、拒む子供の話を聞いたことある? 」

 「そんな子供はいないよ」

小さく否定の意味を込めて、答える。

 「いるのよ。生まれた瞬間から自分で首を絞めて生まれてくるの、

 子供は、みな、お母さんの身体と繋がってうまれてくるものでしょ」

 「なんで、あの時、もうちょっと力込めなかったのかなって後悔してる」  

多分、臍の緒が首に蒔き着いて生まれてる子供の話をしてるのだろうとは気付いていた。



 

 「違うよ、それは事故なんだよ」  

「生まれたくなんてなかったのに」



 もう君は僕の声すら届かないところに立とうとしていた。

こんなに近くにいるのに、たとえ手が触れていても心まで触れ合えない。



 

    ── 望んだものは絶望 ただそれだけ ──



 

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