レプリカ・リスト・カット

 

 じっと手首を見つめてみる。何度も、想像して頭の中でシミュレーションを繰り返す。

カッターにしろ剃刀にしろ、尖った物が苦手で、いわゆる先端恐怖症のようなもの。

雨の日に歩く傘の波が怖くて、外を歩けないなんて誰にも言えない。

ついつい、想像してしまわない? あの尖った部分が自分の目に向かってきそうで。

つい、この間新聞に載っていた悲惨な事件、見知らぬ人と口論になって傘で殴り殺された

陰湿極まりない極悪事件だと、新聞の前で激怒した。

 ぞっとするでしょう? 誰だってそんな死に方なんてしたくないじゃない。

それなのに、死にたがっているあたしの本質は恐怖に怯えながらも、頭の中で何度も死を

体験している。何かがあたしを急がそうとしている気がする。

 トンと背中を押されたら、勢いで実行してしまえるのかな?

何処かに行きたがっているあたしの心ごと、行けるのかな?

まだ、そこまで追い込まれてもいない時間の中で、何度も繰り返すレプリカな時間。

何が、正しくて、何が悪い事なのか。まだ見つけれずに留まっている時間の中。 

 

 最初に、何となく死について考えたのはもう記憶にすらない程の昔。

ぼんやりと、いつか来る死について考えいた子供の頃。

生きていてはいけないんだとなんとなく子供心に思いこんでた。

最も近く感じれたのはたまたま、長期入院してもらえた睡眠薬を目にした時。

なんとなく集めて200錠ほどを手に入れた。なのに、何故、実行しなかったんだろう。

機会を得る事も出来ず、不眠症になった身体が毎日の糧に一錠ずつ消化していった。

不眠症が治るまでに5年かかった。眠れないって言う体験は、生きていく上でどれだけ

つらいものなのか、不眠症になった事のない人にはきっと解らない。

 

 もう何度も繰り返してる、心の中で光る剃刀が実行に移す日を。

偶然、この前、手首の真横を数センチのかすり傷が出来た。うっすら滲む赤い血を

そのままじっと見ていたら、消えたがっている自分の心に気付いた。

何も待ってはいないこれから先の未来。何の夢すら持っていない私。

ためらう事なんてないのに。 何も足枷は残してないから。 

   

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