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Nothing more
「何にもないのよね」 遠くを見つめるような瞳で、誰かに言っている風にでもなく溜め息のように 一言だけをつぶやいた。 「きっと意味があるから、こうしていられるんだってずっと思ってた。だけどね」 問い掛ける言葉が、浮かばないまま次の言葉を待っている僕。 「もちろん、みんなそう思って暮らしているんだってわかってるんだけど。 なんで、こうしているのかな? なんてそんな哲学みたいな事を、真面目に考えてたって 仕方がないんだけどね」 ちょっと恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。 意志の強そうな口元と対照的なその今にも泣き出しそうな大きな瞳。 「昔から多くの哲学書の中でいろいろ語られてるよ。 何か残る物に出会えるかも」 「本は好きよ、読んでいる間はいろんな宇宙を体験できるから」 僕は手に取り掛けた本を、また元の位置に戻した。 「この花にだって同じように命があるのよねぇ」 窓際に置かれた鉢植えの桜草に向かってつぶやいている。 哲学的な事を口にする君を、僕は笑って見守る事にした。 (この前は、あの月を見つめて泣いていた君を思い出しながら。 どんどん遠ざかるあの月を恋しがって。 僕らが、生きている間には目に見えるほどの変化はないんだよと 説明するのに一苦労してた事を) |