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心の憧憬
学校の帰り、友達の家に寄り道してから帰るのが好きだった。同じ学校ではなくなったけれど。
彼女の部屋の中で、グランドピアノにもたれて彼女の弾く交響曲を聴く時間を至福の時だったのだなと今は思う。
夕闇が段々近くなってくる時間、空が高く感じた頃、彼女の家を時折訪れた。
2人で自転車に乗って、お城の天守閣まで行く。すぐ横にある県立図書館で古い書物の紐を解く。
天守閣から見える風景を、私達は遠い過去の国に置き換えて想像して言葉を楽しんで遊ぶ。
するとここは遠い遠い歴史に埋もれて今はない国に姿を変える。私は、じっと目を閉じて、ひとときだけの
本当の自分でいられる場所に佇んでいられる。彼女の語る言葉が私を過去に連れ出してくれた。
私は私でなくて、彼女も別の彼女に代わる空間。もちろんこれは空想の世界でしかなく。
彼女の学校にあるバロック式の校舎が好きだった。今はもう姿を変えてないけれど。
何故、人は古い物を奪いさろう捨て去ろうとするのだろう。
私の見ていたあの人は、彼女の学校の一つ上の先輩。
文化祭の日、会える訳もない人の姿を探して知らない通路を歩く。
ここであの人は何を思って3年間を過ごしたのかな。
暮れゆく秋の何もかも輝いて見えた数時間の出来事。
完璧主義の彼女の好きな彼は、別の学校で楽しく時を過ごしてた。
学校一モテたはずの彼だから、彼女の片思いは届かなかったけど。
あとから報告が来たのには、驚いた。
(ちゃんと気持ちを伝えれたって。ふられたけどね、好きでいて良かったって。)
勇気を持てた彼女がうらやましいなと思った。
私が居るからがんばれたんだよと泣き顔で言うから
私はいつものとおりに笑って、私も大好きだよ。と答える。
ピアノが好きで都会に行ってオペラを習うんだと笑ってた彼女。
今の私からは遠く離れた世界に今は生きてるのかな?
少しも前に進めてない私を見たらきっと怒って口も聞いてくれないよね。
あの一瞬のときの中、私が居て彼女が居て静かに流れるときがあって。
あとは何もいらなかった。彼女の指が奏でるピアノの音を、私の耳が忘れない。
あの想いをなんと呼ぶのだろう。一緒に居ると嬉しくて涙が出るくらい愛しく思えたあの想いを。
彼女の記憶の中で1番大切なのは、2人一緒にいた事だよと笑ってくれた君にもう一度会いたい。
私が生きている理由のひとつが、彼女に会いにいけれるくらい輝いた私に戻れること。
この時代は、悲しすぎて切なすぎて1人で乗り越えていけるのか不安ばかりが募る。
誰かに心を聞いてもらいたいのにもう君は居ないんだよね。
いつか、ずっと時が過ぎて100年くらい過ぎたときかな、あっちの世界でまた会ったら
約束守れなくてごめんねって君は謝るんだよね。私の望みは、過去を越えることだったから。
叶うはずもない願いだけど、君は私なら大丈夫って優しく笑ってくれた。
あの笑顔が私に勇気をくれた。大きな黒目がちの今にも泣きそうな顔で笑って。
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