紅茶を一杯

 

 

 いつのまにかウトウトしていたら、きっと寝ちゃってたんだ。

だって、目が醒めたらそこは自分の部屋じゃなかったんだもの。

何度も心にうかべていた人が笑って私を見てたから、

 (あぁっ、これは夢なんだな) ってすぐ解った。

遠い時代の向こう側にいるあなたと、未来の中に進んでいく私との間の時間の壁。

壊せるはずなんてあるはずもなく、だからここは夢の中なんだってすぐに解った。

 そっと指を伸ばしてその肩に触れてみる。

冷たい感触が、段々と温もりを伴って私に、ここにあなたがいる事を教えてる。

息が詰まりそうな緊張感が私を包むから、言葉をかける事をためらった。

言葉を発したら夢から醒めるんじゃないかなと思った。

それなら、何も交わさずにこの不思議な時間を無駄にしないように。

 

 夢の中なのに、お気に入りの紅茶セットはそのまま存在してくれていた。

あなたのために紅茶を入れるから、まだ消えずにここにいて。

アールグレイの香りが夢の中でもきつく香っている。

夢なのに、感覚が残っている。

段々、あなたが空気に溶けていくのは私が覚醒し始めたせい?

 

 自分のためにティースブーン一杯。

そして誰かのためにもう一杯、最後はポットのためにもう一杯。

それが美味しい紅茶の入れ方。 午後の時間を過ごすため。

 

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