最後の日

今日で、この地球ともお別れか・・ 」

グラスに入れたワインを一口で飲み干した。バーのバーテンが二杯目を注ぐ。

濃いブラッド・ビジョンが窓からの夕陽を反射する。

「長い付き合いでした。どちらへ移民に?」

「とりあえず木星までは、チケットは取り寄せてはいるがね。あんたは?」

「私は火星に家族が先に行って準備をしてくれています」

「あの太陽をこうやって見るのも最後になりそうだな」

「何処に行っても太陽は見えますよ」

「あと24時間で、この星も消えてなくなるのか」

宇宙歴1000年、12月XX日、惑星R激突まであと24時間。

地球政府は、ありとあらゆる手を使って、激突を避けようとしてきた。

惑星の軌道を反らすためのミサイル発射も試みてはみた。

しかし、あまりにも惑星は大き過ぎた。そして、とうとう全地球市民に向かって

発信されたニュース・・地球激突・・全人類を宇宙に移民計画。

人口は、かっては60億人を超えかけていた頃とは比べ様もなく。

現在の地球市民。総勢T億人足らず。

元々、移民は年々増えてはいた。火星へ、月へと宇宙移民は日常化していた。

「あんたの入れた酒を飲めなくなるのは淋しいな」

「そんな事を言ってくれるのもあなただけですよ」

ここは、地上最高層ビルにある小さなバー。

「今夜は奢りますよ。もう片付けてしまって生憎何もだせませんがね・・

だが・・こいつがある」

ニヤリと笑って、一本のワインを取り出した。

「これだけは、金を積まれてもってやつだったんですがね」

「いいのか?そんな大切な酒を」

「いいんですよ。窓辺に行きましょう。ほらちょうど太陽が沈む」

「地球から見る最後の夕陽に乾杯」

人類の祖先が、神のように慕ってきた太陽。

オレンジ色の光りが、遠い水平線に消えていこうとしていた。

「綺麗だな。明日の今頃は宇宙船の中にいるなんて信じられないな」

「 やっと眠りにつくんですよ。この星も。いい夢を見て欲しいものです」

「信じられないな。この時間が永遠に続くものだと思ってたのに」

「そうですね。ついこの前のような気が・・。地球が出来たのも」

「可笑しな事を言うね。見てきたかのような言い方をして」

酔っぱらってきたような素振りは見せずに、奇妙なことを言うバーテン。

「はは・・そうですか。さてとこれが、最後ですよ。お元気で」

「地球の最後と我々の未来の星に乾杯」

・・チーン・・とグラスを合わせる音。

次の瞬間、ピカッと空が白く光った。・・あぁ、綺麗な花火が上がった・・

酔いが回ってきた中、そう思った。地球最後の夜、真昼のような明るさ。

・・明日のことなんてどうでもいい・・

それっきり意識が途切れた。

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