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この街の中を
…また、やっちまっちた… 俺は、横に転がってるさっきまで生きていたはずの物体を眺めながら、溜息を付いた。 …だから、よせって言ったのによ… 省略して言えばこう云う事だ、俺の中にもう一人の自分がいて そいつは恐ろしく強暴な奴で、怒らせると何をしでかすか解らない奴で 本人の俺ですら、気付かない内に勝手に入れ替わって 事をしでかしては、 やばくなったら俺にバトン・タッチ。俺の中で、ポーカーフェイスを決めこんでる。 こいつの、尻拭いを何度させられた事か。実際、そいつになった時の俺を見た奴は誰もいない。 いや、生き残ってはいないらしい。それ位、やばい奴なんだ。 時々、鏡を覗きこんだ時に恐ろしいくらい冷たい目をした俺が映る時がある。 自分で驚く時がある。冷たい凍るような目で、思わずゾッとした。 まばたきをした瞬間に、世間が知っている俺の顔に戻ってるのに ホッとする時が度々あった。
…とにかく、ここから離れなきゃな… 記憶のない時の事まで、責任をとらされちゃぁ、堪らない。 俺は、こいつの事は知らないし、多分こいつだって俺の事なんかすれ違い さえしなければ、まだ生きてられたのに。 …あんたは運が悪かったんだ… ちょっと肩があたっただけで、俺に殴りかかってくるから。 抑えつけていたあいつが、目を覚ますのに5秒とかからなかった。 俺とあいつが入れ替わる瞬間。頭の中が一瞬真っ白になって、身体中の血が 熱くなってくるのが解る。ワクワクするってのかな。 これって、本当はやばい事なのかもしれない。 あいつに、意識まで乗っ取られる日も近いのかもしれない。
とにかく、俺はこの場から立ち去る事に成功した。 運がいいのか、悪いのかこの辺は喧嘩が日常茶飯事で、身元の解らないまま 仏になった奴の 数は両手じゃ足らない程だった。 ここは、本当に日本なのか?俺は時々、錯覚に陥る。 毎日の生活に、押し潰されそうになって生きていくだけで 精一杯で、時々ぼんやりと街をさまよいたくなる。 そんな時の俺は、半分はあいつの意識にのっとられているんだ。 半分だけの俺は不意に人のぬくもりが欲しくなる。誰かを抱いてると、心地良くて 心まで癒されないけれど、それでも少しは楽になった。
この街の果てしない迷路は、一体何処まで続いていくのか。 そこに入り込んだら、戻ってこれるのかな? 真夜中になると、部屋を抜け出してなにかを捜して今日も歩いてる。 本当は、殺して欲しがってるのは俺なのかもしれないし、 あいつ自身が、死にたがってるのかもしれない。 運が良ければ願いは叶うさ。ここはそんな街なんだ。 |