J・Jは、一瞬だけ僕の前から姿を消した。 それは本当に一瞬だったから、僕はその時は何も思わなかった。 「終ったよ、帰ろうか、君の星へ」 「さようなら、冬生 いつか・・・ね」 僕は最後の彼女の声を聞いた。 「月が無くなる訳じゃないからさ」 変ななぐさめの言葉をポツリと言う彼が、本当の正体が誰なのかなんてどうでもいい事だった。 多分ムーンは知っていたんだろう、僕はあの言葉は聞かなかった事にした。 「今夜は満月なんだ、地球から見たらの場合だけど、別名、ブルームーン、二度目の満月を意味する言葉だよ」 何も見えない空間が僕の目の前に続く、どんどん彼女から遠ざかっていく距離感に押しつぶされそうで心が痛かった。 彼女の待っていたのは本当に僕で合っていたのか、誰に答えを問いただせばいいんだろう、 僕の前世、記憶、いきなりぶちまけられたってどうすればいいかなんて解らなかった。 「君はまたいつもの生活に戻る。孤独な神の夢を覗けたと思えば忘れるさ、いつか」 「僕は忘れたりしない、ここにあったのは夢なんかじゃなかった」 三角錐の建物が見えてきた、僕は後ろを振り返る、振り返っても誰もいやしないのに。 月の表面に僕は足跡を付けてみた、昔、ガガーリンが付けた一歩と比べると対した物 ではない一歩だったけど。僕はその足跡を見つめて、そっと掌を合わせてみる。 ここは遠い宇宙の片隅で、僕はちっぽけな存在でしかなくていつか終りを告げるだろう 僕の生涯ってやつを真面目に考えてみたくなった。 月の記憶が伝わる訳でもないけれど、僕は小さな石ころを記念に持って帰る事にした。 そんな僕の行動をJ・Jは見ていたけれど、止めるそぶりはしなかった。 「家に帰ったらさ…僕、勉強するよ、そしていつか偉い学者さんにでもなって 月に永住権をもらうんだ、出来るよね? 」 僕の肩に手を乗せると、遠い地球を指差して、笑い返したその表情が、何故かとてつもなく淋しい物を僕に感じさせた。 (君も淋しかったの? J・J 長い時間をさ迷い歩いてきて )
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