
| Cry For The Moon ──無いものねだり──
小さな笛と満月とペンダントと石碑と僕の影。 もう充分な秘密の材料は出揃っている。これから一体何が起こると言うのか。 僕は、満月の下で、何かが現れるのをじっと待つ事にした。 シャランっと、首の鎖が切れ足元に落ちたペンダント・トップ。 緑色の光が、その月の光を浴びて何かに変わろうとしていた。 緑色の煙のような中から、何か動く影が現れ、それは、小さな妖精のような者から 段々と成長して一人の女の子になった。 それは、美しい蝶が蛹から目覚める脱皮に似ていた。 「あなたが、選ばれた者?」 唄うように、優しい声が心の中にしみこんできた。 「私は、あなたの心に話かれているから、あなたも考えるだけでいいの」 「僕は、気がつくとここにいてずっと何かを探してここまで辿り着いて、その・・・」 彼女は、解っていると言うようにゆっくり頷くと、僕の額にその白い手を当てた。 パァッとまぶしい閃光が、僕の目の前で起こり思わず目を閉じた。 「私は、願いを懸けたの。この世界が滅びたあの日に、私の心と最後の力で このペンダントの中に私自身を閉じ込める事にしたの」 「何故、そんな事を? 」 「この世界が無くなるのを見たくなかったからよ、私の愛するこの国が 消えていく瞬間に生きていたくなかった。でも、誰かがそれを見届けて、次の世界 に繋げないと、何もかもが消えてしまう」 「この砂漠は、昔、国だったのか?」 「そう、美しい緑の森をたくさん持った豊かな国だった、でも、どんな国でも その衰退の時が訪れる。その頃、私は最後の皇女で巫女でもあったの」 「この砂漠の下に、国が埋もれてるなんて信じられないな」 「この砂漠は美しいでしょう。綺麗な物を飲み込んだ物は、その姿形も美しく 見えるって言う言い伝えを知らないの?」 「こんな広い砂漠の下に飲み込まれた国があるなんて」 「だって、あなたは見つけたんでしょう?あの石碑を」 「あの詩は君が書いた物?」 僕の手の中のペンダントを見つけると嬉しそうに笑った。 「あなたは、昔、ここで生まれて育って死んで逝った者、だからここに来れたの」 「僕が、ここで?」 「あなたに、ここの国を覚えてい欲しかった、せめて誰かの記憶に残って いって欲しかった。だから、あなたを呼んだの」 「ここは、もう元には戻れないの?} 「この姿を記憶に刻んでおいて、これはあなたの星の未来の姿に成りえる事だから」 「僕の国?まさか・・・あの星が」 「誰もがそう思っていたの、あの瞬間まで、このペンダントは何にも封印が 解けない呪文がかかっているの、ここの星にしか存在しない魔法石」 僕の手から、その石を拾いあげてそっと涙をこぼした。 「もう、お別れの時間が来たみたい、月が欠け始める前に帰らないと 元の世界に戻れなくなる。影が出来たのも、その現れの一つ。 長くあなたを引き止めすぎたから」 「君は、どうするつもり?」 「願いは叶ったから、魔法はココまで、後は風になるだけの事。 でも、あなたは夢で、私の事を思い出すの、でも目覚めると私を覚えてはいない、 せめて、あなたの夢の中に存在させていて、私とこの国を」 「夢で、またここに来れるの?」 「ここではないけれど、私の姿とその記憶の中の幻影が見れるはず。 ごめんなさい、あなたの夢を利用して。さぁっ、もう時間よ、月が欠け始める」 「僕は・・・」 「さよなら、夢で逢いましょう」 小さく手を振っている姿が、空気の中に消えていくのがはっきりと見えた。 目覚めると、頬に涙が伝って落ちていくのにもかまわず、僕は大泣きした。 泣いている意味なんて解らなかったけど。泣かずにいられなかった。 ─── あの月を取ってよと、あの子がせがむから僕は届かないのも解っていて この手を伸ばすんだ。唯あの子の喜ぶ顔が見たいから───
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