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… 何の話から始めようか? … じっと膝元で甘えるようにもたれかかるクラウド 。 お前を見ているだけで、俺がどんなに幸福でいられるかを知っているのか? 知らぬ素振りをしているのか、ふと問い正したくなる時がある。 冷たい氷のような無表情な顔で人を突き放して、生きてきたお前。 泣きたくなる時だって、お前にだってあっただろうに、 平気さと強がるそのプライドの高さが、唯一のお前の誇りなのか? 小さい時から、記憶を封印され愛を知らずに生きてきたお前を 誰に責める権利がある? ただ、こうして俺のそばにいてくれる事に、俺は生きてきて初めて 神と云う存在に感謝をした。
長い長い間、俺はずっと独りぼっちだったんだ。 誰もいない世界にぽつんと取り残されて 俺はただ息をしているだけの生き物だった。 お前と、出逢ったあの場所に辿り着く前からずっとだ。 多くの血が流されて、時間は過ぎていった。 俺の中に流れる獣の血が、安らぎを求めながらも先へ先へと生き急いでいく。 俺はどこまで行くのか? 戦いの中で、気が付くといつも俺は一人きりだった。 俺の殺した奴らの血と、残された家族の泣き声、俺を恨む声。 そいつら全部が、鎖のように俺に巻き付いて離れないんだ。 夜毎の眠りの中にまで、そいつらの声が聞こえるんだ。 夢の中で、俺は何度も叫んでいた。 …許してくれ…と何度も。一体、誰に向かって俺は叫んでいたのか。 泣き叫ぶ自分の声で俺は目を覚ますんだ。 もう気が狂いかけてたのかもしれなかった。 だから、俺はあの場所に自分自身を封印したんだ。 もう二度と人を殺さずにすむように。
そして、お前が俺を闇の中から連れ出してくれたんだ。 明るい太陽とおなじ髪の色、いつか見た空のような瞳。 一目見た瞬間に、俺には解った。 俺は、お前に逢うために今まで存在していたんだと。 傷付くことなんか怖れないお前の無防備さが 俺の心を溶かしていった。
これから、お前が何処へ向かおうとしているのかは 誰にも解らない、お前の抱えている心の闇も。 振り返ったその視線の先にいつも俺がいる事を確認して、 安心した顔を一瞬見せ、すぐに歩き出すクラウド。 いつか、お前にこの想いを告げる日が訪れるのを 俺は、心の中に浮かべながら今はこの至福の時を 大切にお前と過ごしていきたい。
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