「そっか…もう行っちゃったんだ。」

 いつものように、後ろを振り向いてしまった後で、そこにある空間に気付く。

同時に心の中にぽかんと空いた空間に、又つまづいてしまう。

 遠い街に遠征に出かけてしまった彼の後を追ってあいつもこの街を出て行ったのは、

一ヶ月前。 まだ心の中に、いつまでも想いを引きずっているなんて事を、

ずっと気が付かずにいた。目の端に、いつも彼の気配を追いかけていた。

 

 そばにいられなくたって、唯の友達だけで良かったのに。

「情けないなぁっ、このリノアともあろう者がいつまでも、同じ恋を追いかけるなんてさ」

 独り言をボソっと零した。

誰もいない時位は、心には素直になるのがあたしのモットー。

 嬉しい事や楽しかった事、悲しかった事、何でもスコールに真っ先に話に行った。

誰よりも先に聞いて欲しい相手だった。 たとえば、それは本当に他愛のない話だったり

するけれど、うんうんと頷いてくれるスコールの表情の変化を見るのが好きだった。

 その声を聞くのが好きだった。だから、あたしはいつだって笑顔を見せて笑って

スコールの前ではいられた。なのに、そのスコールがここにいない。

 元気のあるふりを続けなくてもいいのに、いつのまにか癖づいてしまっている。

 

 「そんなものだよ、本気だったんならな。」

不意に後ろで、声がしたから驚いて振り返った。

 「アーヴァイン、聞いてたんだ。 」

 「あんなでっかい溜め息ついてたら、誰にでも解るさ。」

 「でもよ…」 ちょっとためらった表情を浮かべているアーヴァイン。

 「えっ? 」

 「かっこ良かったぜ、あいつの前のお前」

 一瞬、何を言われているのか解らなかった。(あいつの前でって?)

 あの日の記憶が頭の中によぎった。あの夜の事?

 「泣きたい時には、いつだって胸貸してやるからよ」

 「あっあたしは…」

 照れたその優しい笑顔を見ていたら、もう何も言えなくなってた。

 「馬鹿…ね」

 そのまま、その横を通り過ぎて角を曲がりかけて立ち止まって振り返った。

 今、出来るのは少しだけ笑って。

 「でも、ありがとう、アーヴァイン」

少し、心が軽くなったのを感じた。 誰も知らないと思ってた私の想いを誰かが

覚えていてくれる。もう消えてしまうしかなかったあの想いを。

 

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