親愛なる… 

 思い出の中で輝いてるのは、別れの時に見せたレインの泣き笑い。

 もう逢えなくなると知らずに離れたあの日の。 

 

 エルオーネを探して、村を離れる日。

何か言いたそうな瞳で、レインはドアの前に立っていた。

 「どうした?そんな淋しそうな顔をして?」

 「エルオーネを、見つけて必ず救い出してきてね。必ず…」

 「解ってるよ、そのために行くんだ、約束する。すぐに戻るよ」

 「帰ってきたら、お知らせしたい事もあるし」

 「?」「ふふっ、なんでもないの、ラグナ、早く帰ってきてね」

 「大丈夫だよ。エルオーネを連れて戻ってくるさ」

そっと頬に、お別れのキスをして俺は家を後にした。

予定では、1年はかからないつもりだった。

すぐに、レインの待つ村に向かう事が出来るはずだった。

なのに… 俺の元に辿りついたのは、レインの死を知らせる1通の手紙。

いつものレインからの手紙だと思った。

元気な文字で、近況を知らせてくれるいつもの…

 

俺の元に届けられた手紙には、彼女の眠る場所の

住所が書かれてあったんだ。あの少し遠慮がちに笑った顔が目に浮かんだ。

…ごめんよ、レイン。君を一人にさせて… 

そしてもう一枚の手紙に、彼女の産んだ息子の消息。

あの日、言いかけたあの一言。聞き出せば良かった。一言で良かったんだ。

 「なんの事だい?」

それだけで良かったんだ。そうしたら、レインも答えてくれていたんだ。

 

エスタでの戦いの功績が認められたのか、どういう因果か

次期大統領候補に勧められた。

…おいおい、ちょっと待てよ、俺なんかを大統領なんかに選んだら

 お天道さんだって西から上っちまうぜ、冗談だろ…

でも、周りが上手く俺をおだてるものだから、こんな性格だから

ついのせられて、言っちまったんだ。

 「もし選挙を行って選ばれたら、俺は真剣になってもいいよ」

ところが── 開けてビックリ。

運がいいのか、悪いのか、その選挙に立候補する奴は誰もいなかった。

つまり…ストレートに大統領に任命されたって訳。      

      ──そして 現在 ──

 あの夢の中で、出会ってたお前がレインと俺の子とはずっと気付かなかった。

エルオーネの力は、俺の想像を超えるものがあった。

 こうやって喋っていても、まだ信じられないんだ。

本当に、あの不思議な時間はなんだったんだろう、時間と空間を

行き来していたあの感覚。考えた事なかったか? お前は何故自分だったのかと。

あの頭の中で、シンクロしていた不思議な感覚。

俺であって俺ではない誰かが中に入ってくる瞬間。

でも、違和感は感じなかったのが不思議だったんだ、今思うと。

エルオーネは知っていたんだろう。俺が探していたものを。



今更、俺が親父だぞなんて、偉そうに語る気は更々なかった。

レインに苦労をかけた事だけは後悔してる。

生きてれば、誰よりも綺麗に飾ってやれるのによ。 

きっとよく似合ったんだろう。赤いドレスも、プラチナのピアスも。

あいつの望む事だったらなんだって叶えてやれるのに。

俺の下手なジョークにも、笑い転げていたレイン。

傷を折った俺にずっとついていてくれたレイン。

ずっと幸せにすると誓ったキスも、全部今は唯の想い出の中。

 

大統領と云う肩書きの下、レインのお墓に毎日花を贈るのが俺の日課。

愛する妻・レイン そしてその息子 スコールへ 愛を込めて

  

P・S 次の大統領はお前やらないか(笑)

 

back