誕生日

 

「 優しくしてくんなきゃ、解んないじゃないか!!」

 

突然、投げつけられる言葉。

幾千のあざけりの言葉よりも、不意に見せるお前からのこんな風な

心を露わにした言葉が、俺の心をえぐり取る。

 

 「クラウド?」

 手当たり次第に、目につく品々をほおり投げてくる.のを、俺は

器用によけながら、少しあきれた表情 を見せる。

──あくまでも、見せるだけだ(笑)──

一番先に被害にあったのは、文庫本数冊、まだこいつは少し折れ曲がった

だけだったが、次に脱ぎっ放し になってた俺のシャツ。

 ボールペン、メモ用紙、煙草、ライター、etc。

 

 さすがに、最後に飛んできた珈琲カップは、壁に当って砕け散った。

──結構、気に入っていたやつだったのに──

…ピッ…  と、はねてきた欠片が頬を掠める。

「あっ… 」

 驚いた表情で、投げかけた本が手から床に落ちた。

 「あんたが、悪いんだ…」

 どうやら、少し落ち着いてきたらしい。

 「どうしたんだ、クラウド?」

 そっと、手が伸びてきて頬の血を辿る。

 「ごめん…当てる気なんか…」

 「落ち着いたか?」

 頬にそっと、冷たい唇が触れた。

 「約束したじゃないか…今日は、俺の誕生日だから朝からずっといるって…」

 「約束?」

 どうやら、それがご機嫌ななめの原因らしい。

夜中に、急な呼び出しがあってベッドを抜け出た事が気に入らなかったようだ。

普段のクラウドなら、こんな風に感情をぶつけてくる事なんてしない。

 「ごめん、俺じゃないとどうしても解決出来ない仕事だったんだ」

 ここは、素直に謝っておく事にした。

誕生日を忘れていた訳じゃない、俺のポケットの中にはプラチナで出来た

アンクレットが包まれて入っていたから。

 

 「忘れて、どっか行ったのかと思った。俺の事なんてどうでもいいと思ってた」

 床に落ちた本を拾うために屈み込むクラウド、

ポトリと、床に大粒の涙が落ちる。

 「後で、俺がやるからいいよ、クラウド」

 そっと、その肩に手を置くと、安心したように胸に飛び込んできた。

 「もう帰って来ないと思った、あんたまでが俺からいなくなるのかと思った」

 「馬鹿だな、お前のそばから離れる訳ないだろう」

 ポンポンと、その頭を軽く叩くといつもの安心しきった笑顔を見せた。

 「ねぇっ、ザックス、俺の事愛してる?」

 「…ベッドでなら言ってやるさ」

 「普段のあんたの言葉が聴きたいんだ」

 ポケットの中から、小さな箱を渡す。

 「お前のだ」

 嬉しそうに受け取り、ためらいがちに俺の表情を読み取る。

 

 そっと、箱をテーブルに置くと、甘えるように手を首に回してくる。

小さなキスが俺の唇に辿りつく。一度、二度と試すように。

そのまま、重なった唇の間に強引に舌を絡めてやると、

ためらいながら、すぐに反応を返してくる。

「ンッ…」

「さて、このお仕置きはきついからな…」

 乱雑な部屋を目線で差して、俺は小さく笑った。

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