真冬の午後三時

 

外は雪が降り始めた真冬の午後。

俺は、普段の休みと同じようにサイファーの部屋の中。

今年の冬はきつく長く続きそうな感じがした。

雪があまりひどく降ると市内のパトロールなんかも、シードの仕事の一つになるから、

あまり積もっては欲しくはなかった。

仕事がきついからとかそんな理由ではなくて、吹雪の夜は嫌いなだけだった。

俺の記憶の中の孤児院での暮らし、寒さに震えた吹雪の晩、誰もいなくて

寒くて泣いてた自分を思い出しちまうのが嫌なんだ。

あんなに惨めで、つらい思いを二度とはしたくない。

一度、パトロールの仕事で街を回った時に、迷子になっていた子供の遺体を

発見した事があった。孤児院を抜け出して雪の中、さ迷い歩いてた自分と重なった。

小さなその体を抱きしめていた俺の身体から、サイファーが離すまで

どれ位の時間が経っていたのか。

「もういいだろう、スコール。もういいから」

冷たくなったその体は、二度と温もりを取り戻さなかった。

それから、雪の日の後のパトロールが怖くなった。

怖いって言葉は合ってはいないのかもしれないけれど。

ぼんやり窓の外の雪を見ていた。白く積もって、街のすべてを覆い隠していく。

サイファーは、ソファーに横になって読みかけていた本を開いている。

「コーヒーでも入れようか?」

チラッと目線を上げて、伏せた。無言の了解。

サイフォンから湯気が立ち始める頃、外は少し暗くなり始める。

「明日の・・・」「えっ?」

「お前、パトロールの任務だろう、俺と替わろうか?明日は、隣町のガーデンに行く事に

 なってるから、その・・・」

この前の事を気にしてくれているのが解った。

「大丈夫だよ。この前はちょっと精神的に昂っちゃって」

それでも、心配そうな表情で俺を見上げる。

「入ったよ。コーヒー」

カップを渡しながら、その横に俺も座った。

「孤児院でさ、暖炉の前に座って薪をくべながら塩を投げたの覚えてる?」

「あぁっ、ママ先生の目を盗んでな」

「綺麗だったね、青く炎が飛んで」

「みんなも喜んでたよね、なんで忘れてたんだろう。楽しい事もあったのに」

「そうしないと、生きていけなかったからさ」

「でも、今はこうやってまたあんたと居られるから」

そっとサイファーの肩に頭を乗せてみた。

暖かい温もりがここにはある。俺が存在している事を、唯一証明してくれる存在。

外は雪が降っている。でも、もう雪の寒さで凍えることはない。

ここはこんなに暖かいから、俺は生きていると実感出来る。

あんたのそばだけが・・・。

 

 

back