聖バレンタイン

 

 「スコール」「んっ? 」

 「なんか忘れてないか? 」「何って? あぁっ、これか」

 ポイっと投げられた赤い小箱。

 「ポイ・・・って」

 「いらないの? じゃっ返せよ 」

 「いるけど、もっと甘い演出とかさぁっ」

 今日は、ちょっと機嫌の悪そうだったスコールは、次の瞬間にキレた。

 「あのさ、俺だって男なんだぞ、なんで…」

 「お前の方が小さい、歳も下、加えて可愛いから」

 不機嫌な顔がますますボルテージが上がっていった。

 「返せ、今年はやらない。自分で食う」

 「お前もチョコ欲しかったのか? イライラしてる時は甘い物が一番い…」

 「もういい、帰って寝る」

 バターンとドアが閉められて、一人取り残された俺。

 「やれやれ、お姫様はご機嫌斜めか」

 機嫌取りをどうするか、しばらく考えてみた。めったに、強く自己主張しないスコールだったから、

今日みたいな日の扱いには俺は慣れてなかった。

いつだって、謝ってくるのはスコールの方で、俺はのんびりと構えてれば良かった。

甘えているのは俺の方だった。スコールはなんだって許してくれていたから。

 「う〜…っ。駄目だ、何も浮かばない、仕方ないか」

 俺は、諦めて外に出掛ける事にした。もちろん、スコールのお望みの物を探しに。

街は、まだチョコレート合戦で華やいでいる。

 普段、甘いのが苦手な俺にとって、地獄としか思えない場所だ。

 「適当に選んで…っと、参ったな」

 種類の多さと、女の子ばっかりの売り場に辟易してきた。

スコールの怒っている原因はこれもあるのかなとふと思った。

 店員に、目当ての代物をブルーの包装紙で包んでもらった。

家には向かわずに、スコールの部屋に向けて方向を変える。

ドアをノックすると、不機嫌そうな顔のままでスコールが出てきた。

 「まだ、拗ねてるのか ? 」 無言で奥に戻っていくスコール。

 「あのさ、俺はお前を女扱いなんかしてないし」

 「もういいよ、そんな事いちいち気になんかしてないよ」

 「だったら、その不機嫌な顔を治せよ」 「生まれつきだよ」

 堂々巡りは続くだけで、らちが明かない。

 「じゃっ、今日はもう帰るよ、これ渡しに来ただけだから」

 包みをそっとテーブルに置くと、俺はさっさと部屋から出た。

階段の隅に座って、煙草に火を付け、その間、五分。

 ドアが開いて、どうやら機嫌を取り戻したらしいスコールが俺を見つけた。

 「何やってんだよ、サイファー、風邪引くから入れば」

 心の中では、ホッと胸を撫で下ろしながら俺はその後に続く。

 部屋の中には、俺のために入れてあるキリマンジャロと甘いチョコレートが待っていた。

ホワイトチョコで、メッセージが綴られてあるビターチョコレート。 

  綴られた言葉は一言だけ ──Je,taime ──

 「今日は、ごめん、俺、馬鹿みたいだった」

 拗ねていた自分が、恥ずかしいのか小さい声で謝るスコール。

 「俺も悪かったって思ってる。あの中に入るってのはある意味、戦いの中に入るのと

同じくらい勇気がいるな」

 「だろうっ 」

  嬉しそうに笑って、甘えて首にすがりついてくるスコール。

こんな時のスコールは、小さな犬っころみたいに見えてずっと抱きしめていたくなる。

耳元で小さく笑う声がする。

「来年はもうチョコはいいよ、これ買ってるとこ想像したらさ…」

少しほろ苦いチョコを、スコールが一欠けら噛み砕いてキス。

一口齧るごとに繰り返されるキスの雨。

世界中で恋人達が愛を語り合っている時間。

今夜はずっと二人で…そしてこれからも。

 

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