運命の…

  「あんた、馬鹿だよ…俺なんかの為に…」

 傷ついて、倒れてる俺の横で泣きじゃくるスコール。

その瞳を守りたかったから、ただそれだけだった。

  「怪我はな…い…か?」

 涙で濡れたその頬に、そっと手を伸ばした。

  「ないよ…あんたがかばってくれたから…」

  「そっか、良かった…」

  「頼むからもう喋るなよ…早く、誰か…早く」

   遠くで、リノアの泣き声が聞こえる。ゼルが、大声で何か叫んだ。

   「スコ…そば…に」

 スーッと意識が遠くなって、そのまま目を閉じた。

 ふっと、気付くと真っ暗闇の中で一人きりだった。

 (なんで、誰もいないんだ ?)

 遠くで、俺を呼んでいる声が聞こえた。すごく懐かしい響きを持ってた。

 ためらわずに、真っ直ぐにその方向に向かって歩いていく。

 「こっちよ、サイファー、おかえりなさい。ずっと待ってたのよ」

 「誰なんだ、あんたは?」

 「私を忘れたの?」

 「あんたなんか知らない、でもその声は聞いた事がある」

 「もう戦わなくてもいいの、こっちにいらっしゃいよ」

 「こっちって?」

 誘われるままに、俺はその淡い光の方へ吸い込まれるように歩いていった。

 「…だ!戻って…い…サイファー!!」

 不意に、後ろの方で俺の名前を繰り返し呼ぶんだ。

 悲しそうな、あんな声は今まで聞いた事はなかった。

 (スコール?俺を呼んでるのか…なんでそんな風に悲しそうに呼ぶんだ)

 「サイファー、早くいらっしゃいよ、何をためらっているの?」

 「あいつが呼んでいるんだ。あんな声で、あんな悲しそうな…」

 「私には聞こえないわ、何も…楽しい生活が待っているのよ」

 「俺は、何処にも行かない、あいつのいない世界になんか…」

 その声を振りきって、俺はスコールの声の方に歩き出す。

 「私に人間はいろんな名前を付けるの。夢魔、死神、魔女、

  人の弱い心の中でしか、私は存在できないもの」

 後ろで、その光と供に消えていく声の主が嘆く。

  「あんたが、何物であろうと俺には関係ない、ただ、これだけは言える。

  あいつと引き離そうとする奴は許さない。俺の運命と…」

  「私だって、あなたを愛してるのに…」

  小さな嘆くような声が、響いて消えていった。

 「誰なんだ、あんたは…?」

 目の前が、金色の光に包まれていた。

俺の行かなきゃいけないのは、あいつのそばだけなんだ。

手を伸ばして俺は歩き出した。強く暖かな手が俺の手を握った。

眩しくて目を開けた時、映ったものは。

 「サイファー、やっと目を…俺が解る?」

 「スコ…」

喉がカラカラで、声にならなかった。一体どうなってるんだ。

涙でグシャグシャになった顔で、セルフィが部屋を飛び出していく。

 「あたし…先生呼んでくる…」

 目で、スコールに問う。

 真っ赤な目をしたスコールが、途切れ途切れに教えてくれた。

俺が、この1週間意識がなく熱にうなされている間の事。

「でも、良かった、あんたがいなくなったら…俺も…」

そう言いながら俺のベッドにフラッと倒れるようにもたれて、

スースーと寝息を立てて眠りはじめた。

 「安心したのよ、スコール、ずっとまともに寝てなかったから」

 先生とすれ違いに入ってきたキスティスが、ロッカーから毛布を出して

きてそっとスコールに掛けながら言った。

 「良かったね。スコール、もう大丈夫よ」 

 ニッコリと笑って、

 「ありがとう、スコールを守ってくれてあの角度で撃たれてたら

  命はなかったって先生が…あの時、あなたがかばわなかったら」

 「よせよ、キスティ、当然の事をしただけだ」

 「そうね、でもきっと誰にも出来ない事だわ…もう行くね」

 誰もいなくなった部屋の中、静かなスコールの寝息が聞こえる。

 俺の命よりも大事だから、あの時、すぐに行動に移せた自分が嬉しかった。

 こいつのいない世界なんかに存在していたくなんかない。

 その静かな寝顔を守るためならなんだってやる。

 窓の外から白い三日月がこっちを見ている。

 俺の運命を掴みそこねた魔女の横顔 とダブって見える。

 (悪いな、俺の運命は誰の物でもないんだ)

 額にかかったスコールの前髪に指を絡めながら、その頬に唇をよせた。

 

 

 

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