切なさを知っている

 

 

 お前とこうやって過ごしている時間が、楽しければ楽しい程

一人でいる間の過ごし方が、つまらなく味気ないものに思える。

シード試験の合間をぬっては、お前と過ごせる時間を作る。

幾時間も、任務に費やされるその責任感の重さに息がつまりそうになる。

候補生の俺だけでも、目が回りそうな過密スケジュール。

本シードになったお前は、何も言わないけれど、その大変さは目に余るほどだった。

愚痴一つ言わずに、任務を一つ一つ丁寧に終らせていくお前。

 

(最近の候補生は、お前に似て喧嘩っぱやい血の気の多い奴が多いんだ。)

この前、俺の部屋に訪ねてきたお前が嬉しそうに喋っていった。

(真面目に訓練するだけがシードじゃないから、そんな奴がいる方が

 俺もいいんだけどね、それに…)

俺は、スコールの次の言葉を待っていた。

(お前と練習してるみたいで楽しいんだ)

 ポツリポツリと、訓練生活を知らせてくれる。 

(また、暫らく帰ってこれないんだ…)

(遠征か?)(うん、まだはっきりとは知らされてないけど…)

(すぐに片付くさ、お前はガーデン1のシードなんだからさ)

 ポンとスコールの肩に手を置いて、窓に映ったスコールの横顔を

ずっと見ていた。それがあいつと交した会話。

あれから一月が経った。あいつが例の任務についてからここにはまだ

戻ってきてない、今度の任務は新しく独立した国の内乱騒ぎを治める

って事しか俺には解らなかった。

 

 一人で眠るベッドの広さに溜息をつく夜が続く。

誰かと眠る夜の安らぎを知ったから、不意に目覚めた時の

暗闇の中の沈黙で眠れなくなる。指を伸ばせば触れれたのに

冷たいシーツを掴むばかり…

 「今頃、何してんのかな、あいつ…」

 ベッドの横に置いてあった煙草に手を伸ばす。

あいつは嫌がってたっけ、俺が煙草を吸う事を。

(健康に悪いから、やめろよな)

 俺の唇から取り上げて、灰皿ごとゴミ箱に捨てる。

(嫌いか?煙草吸う俺は?)

(あんたは俺が、真剣に心配してるの楽しんでるから嫌いだ)

少しすねた顔が可愛くて、そのまま抱き上げてベッドまで

連れていったのが最後に逢った時間。

(でもさ、あんたの匂いが好きなんだから仕方ないよね)

 俺の腕の中で嬉しそうに笑うから、その瞳が俺だけを映している時間を

止めてしまいたかった。

俺の腕の中で何度も俺の名前を呼ばせるのが好きだった。

どんなにきつく抱き締めていても、何処か遠いところにいるようなスコール。

 好きだと何回言えば、俺の想いが伝わるのか。

愛していると呟くたびに、心の中の比重は重くなるばかり。

毎日、逢っているから気付かなかった想い。

逢えない時間が積もる程、逢いたい気持ちが積み重なっていく。

逢いたい気持ちが、多くなる分、思いはつのっていく正比例。

 

 …明日帰ってこなかったら、学長に頼んで俺も志願しようかな 

  お前のいる任務地へ…

 そう呟いたら、心が軽くなったから、

窓から入る月の光に、お前も同じ月を見てると願う。

 

  

back