暑い夏がやってきた。俺は寒い時期に生まれたからはっきり言って夏は大の苦手だ。

俺の横で平気な顔をして、本を読んでいるスコールを見てるとつい当り散らしたくなる。

 何か言おうとする前に、殺気を感じたのかじっとこっちを見て、

 「暑いのは俺だって同じだからね」

 (絶対同じ訳ないじゃないか、絶対に・・・)

文句を持っていける場所を無くして、イライラしている俺に諦めがついたのか。

 「泳ぎにでも行こうか、近くに出来たプールにでも」

 珍しく外に出て行こうと誘いの言葉に俺が乗らないはずはなく。

30分後。出来たばかりのプールは案の定、人でごった返していた。

それでも水に浸かっていられる間は心地よく、俺のイライラ感も取れた。

 「夏ってさ、みんなイライラするじゃない、何もかも暑さのせいにしてさ。

 ずるいよ、みんな。夏だから・・・とか変な理由で」

 スコールには、スコールの言い分があるらしく正論を吐く。

 「お前は夏生まれだからさ」

 「ほら、またそう言って。俺だって夏は好きじゃないけどさ」

水しぶきが跳ね上がるのをまぶしそうに見上げながら、

話している様子はそうは思えなかったけど。

 「でも、たまにはプールもいいね。泳ぎは好きだし、あの海にもまた行きたいしさ、

 みんなでまた行けたらいいよね」

 ママ先生のいたあの島の海を、懐かしむような視線をするスコール。

 「行けるさ。いつだってさ」

 遠巻きに、女の子の集団がスコールを見ているのに気付いた。

(ったく、何処に居てもこいつは目立つから)

 「帰ろう、スコール。もう充分涼しくなったし、疲れた」

 「うん、そうだね。サイファーが良ければいいんだ」

 

実際、俺のイライラ感はどっかに消え失せてしまっていた。

濡れた髪が、風で乾いていくのに、夏なんだなと実感する。

 夏風の中に、隣にいるスコールの香りがする。俺にとっての夏の匂いは甘いような

少し胸が痛くなるようなスコールの香り。つけている香水だとかそんなんじゃなくて、

もっと、記憶の中に透明に刻まれたような。

気が付いた時には、いつもこの香りに包まれていたから。

手を伸ばして触れれる空間にいつもいてくれるから、俺は安心していられた。

 「何?ぼんやりしてさ」

 「んっ、いやっ、好きだよ、スコール」

 「なっ、何いってんだよ、バカ。人が見てるのに」

  目線をやると、さっき見ていた女の子が着替えをすませて出てきたところだった。

 俺は何故か意地悪したくなって、スコールの唇を不意に強引なキスで奪う。

あきれたような表情を浮かべ、意図に気付いたのか珍しくスコールも軽く答えてくれた。

 俺はキスの途中で目を開けて通りすぎる女の子に笑いかけた。

「早く帰ろうよ、サイファー」 

太陽のような笑顔を見せながら、月のような妖しさで俺を誘うから。

 

 

 

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