夏便り

 

 「誰から? 」

 一枚の葉書きが、ポストから舞い下りたのを拾い上げて裏面に目をやる。

1行だけの挨拶───暑い夏になりそうです。お元気で───

 表を見ると、宛名は俺に、差出人名は無記入。でも、その少し尖った右上がりの

文字には見覚えがあった。少し、胸が痛んだ。

 「いやっ、唯の間違いだろう」

スコールには見せずに、そのままポケットの中にしまいこんだ。

何も聞こうとはせずに、不意に口笛を吹きはじめたスコール。

 「覚えてる? このメロディー 」

 「ああっ、ママ先生がよく唄ってたな」

 「みんな、どうしてるかな、もうずっと逢ってないね、そう言えば」

 「便りのないのは元気な証拠だろ? 」

 「そうなんだろうけど…」

 「今度、みんなのいる街に戻ろうか、今度の休暇が上手く取れれば」

 今、スコールはみんなのいるガーデンから遠く外れた、小さな街のでシード生の訓練を

やっている、実戦での慎重な態度が買われたからとしか聞いてはいなかった。

たまたま、俺も空きだったから、それに便乗して、隣街で起こっている日常茶飯事な

ゴタゴタを整理して、上手く起動に戻すのが今の仕事。

ガキ供の喧嘩、暴動、よくある話だ。

 「そうだね、帰ろうかな、ここも静かなとこなんだけど、なんか疲れちゃったよ」

 珍しく、弱音を吐きかけたスコール。

 「どうした?、お前らしくもない事を」

 「なんとなくね」

 初夏の日差はきつい、白いスコールの頬が少し赤くほてっている。

 なんで、同じように炎天下の下にいても、こいつはすぐ元に戻るんだろうといつも疑問に思っていた。

どんな強い日差しですらだ。

 「暑いね、今日は」

 「あぁっ、もう夏だからな」

 家から、少し歩いた先に大きな滝が落ちていくのを眺めれる場所がある。

水音を聞くと、少しホッとしたような表情を浮かべて溜め息をつく。

突き出た岩の上に、膝をくんで座るスコール。

静かな沈黙を破るのは水音だけ、二人でいるのに会話がないのは当たり前。

 「サイファー、俺の事好き? 」

言ったあとで、しまったと言う顔をしたあと、じっと俺を見ている。

スコールの心の中で起こっている小さな波紋に気付く。

カサッと胸元のポケットの中、葉書きが存在を強調する。

その澄んだ目が、曇るのを阻止するがためだけに俺は生きているつもりだった。

暫らく、じっと俺の表情を読み取るように目をそらさない。

 「解った、ごめん、変な事聞いたりして」

口にした事を少し後悔したような表情に、不意に俺は気付いた事があった。

 「愛してるよ、スコール」

 

夏の風が、二人の肩を包み込むように吹く。

二人で、いるって事を当たり前に思っていたけど、そうではない事を時々感じる。

上手く言えないけど、伝えなければいけない想いは、言葉にして初めて相手に伝わる

時だってある。相手がいてくれる、存在してくれる、当たり前なんかじゃないって事を。

 

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