
月光の下で
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「眠れないんだ、サイファー」 「どうしたんだ?こんな夜中に?とにかく入れよ、風引くぞ」 11月の風は少し冷たくて、立ちすくんでいるスコールが やけに小さく見えた。 「ごめん、灯りが窓から見えたから・・・」 「本読んでたから、ほらいつかおまえに借りただろう、あれさ、 読んでみたらこれが結構面白くてさ…何か飲むか?」 そう言いながら、いつものキリマンの袋に手をかけていた。 「気、使わなくていいよ」 「スコール?機嫌悪いな、今日は」 「別に…」 「やれやれ、機嫌を直してくれよ、姫」 「誰が姫だって?」 「どう見たって、俺じゃないだろう(笑)」 「別に、怒ってなんかないよ、たださ、眠れなくて気が付いたら ここに立ってたんだ。でも、もう帰る」 「帰るって、来たばっかりじゃないか」 「あんたの顔見たら安心した。それだけだから」 ずっとうつむいたまま、ベッドに腰掛けてたスコールは小さく笑って 立ち上がって、俺の横を通り過ぎていく。 ドアを開けた瞬間のスコールの表情が目にちらついて離れなかった。 あんな淋しそうな目で立ってられたら、誰だって帰したくなくなる。 (こいつが頑なになったらなかなか、ガード堅くなるんだよな) 心の中で思考錯誤していた俺は慌てて、引きとめた。
「ちょっと待てよ、そんな顔されて帰せるはずないだろう」 掴んだ腕は、相変わらず細くて力を入れるのをためらった。 「明日早いんだろう、ごめん、邪魔したな」 「明日って?キスティスと組んだ遠征の事か?」 「俺も志願に出してたんだ、でも別件に回された」 「そんな事ですねてたのか」 「そうじゃない…キスティスが言ってたんだ、サイファーはいつもわざと 危険な方法を選んでるって、でもそれが一番正しい方法だって のは解っているつもりだ。あんたのする事は、いつも正しいから」 ゆっくりと喋り始めたスコールを、再び、ベッドに座らせた。 「明日は、なんか嫌な予感がしたんだ、俺の知らない場所だし… ごめん、シードのセリフじゃなかったね。シード失格だな、俺」 煎れたてのコーヒーカップをスコールの前に置いた。 「飲んだら、落ち着くさ」 コクリと頷いて、静かに珈琲を口をつけるスコール。 「美味しい、珈琲の入れ方だけはあんたが一番上手いよ」 「珈琲だけか?上手いのは」 「なっ!!他になんかあったっけ?」 ちょっと頬を赤らめてすぐに反応するスコールが、やけに可愛く見えた。 「さあな」 立ち上がって、部屋の灯りを消した俺に少し驚いた表情を見せた。 そのまま、窓際に行って外を見ながら、 「こっちに来てみろよ、んっ?バ〜カ、何もしやいないよ(笑) 見てみろよ、月があんなに高く上がってる」 そばに立ったスコールは、ゆっくりと天空を仰ぎ見る。 月の光がスコールを照らし出すのを横からじっと見ていた。 「月って不思議だよね、どんどん遠くなっていく、子供の頃 見たのとちっとも変わってないのに」 「そうだな、孤児院でお前と海に座って見たあの月とな」 「なんだ、覚えてたんだ、小さかったよね、二人供さ」 「あの後、すぐに皆がバラバラにされたんだったけ」 白い月の光に包まれていると、何故か優しい気持ちになって 普段なら言えない言葉でさえこぼれてくる。 「今日はやけにお喋りなんだな」 「好きだよ、サイファー」 「本当に、今日は素直なんだな、スコール」 何処までも深い吸い込まれそうな瞳を見つめたままのキス。 「目、閉じろよ」「あんたを見ていたいんだ」 「ムードないなぁ」「サイファーこそ」 そっと瞼の上にキスをして目を閉じさせる。 唇から左耳にゆっくりと唇で辿っていく。 軽く耳を噛みながら小声で名前を呼ぶ。 スコールの指が、俺の首に回って長いキスをねだる。 (今夜はスコールも俺もどうかしてるのかもしれない…) 肩越しの月が笑って見えたのは錯覚?それとも。 立ったまま、二人の影が重なった白い月明かりの下で。 |
