狂夜 


  触れるだけのキス、唇だけじゃなくて首筋、耳、額、優しく何度も。

時折、性格と同じように激しく責めるようなキスを繰り返すから、自然に力が抜け

立っていられなくなる。 小さく染まるキスの跡、記憶の様に肌に残す。

 小さな赤い薔薇、一つ一つ唇で描かれていく記憶。

 何度、抱きしめ合っても心まで解り合えないから。

時折責めるような目で、俺を見ているのに気付く。

 (あんたに見せれたらな、心の中を切り開いて、そしたらそんな表情なんてさせ

 やしないのに。)

 月が、今日もあの丘から昇り始める。カーテンごしに入ってくる月光。

銀色の光に染まるサイファーの瞳に、俺はどんな風に映っているんだろう。

その首筋に腕をまわしながら思う。

誰かの代わりになんてなれない。いつまで、このままでいられるんだろう。

 何度、身体を重ねても満たされない渇きのような物が時々、自分の中にあるのに気付く。

 (あんたも、そうなのか?だから… …)

 何もこの世に残せない。唯、二人だけ知っている時間の積み重ねだけ。

明日、世界が壊れたって俺は怖くないし後悔もしない。

あんたを失う怖さの方がずっと俺の心を脅かしてる。

愛 って言うのかな。こう言う気持ちを。他には何も残らなくていいから。

 

 目を閉じると涙が止まらなくなってくる。驚いた表情で、そっと唇で俺の涙を拭う。

訳なんかないのに、何故だろう。悲しい訳ではないのに、言葉が発せれなくなる。

 一言でいいのに。その言葉の真実の重さに押しつぶされそうになる。

こんなに誰かを大切に思っている自分が怖くなる。と、同時に、そんな相手に出会えた

事を、その運命に感謝している自分がいる。

 空を見上げると大きな丸い月と目があった。

 (あぁっ、そうなんだ、あんたのせいなんだ。こんな気持ちになるのは)

 銀色の光は、世界中に夢を見させる。叶わぬ夢、ありとあらゆる願望。

夢を見ないと生きれない人々の上に。今夜も。

 

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