この夜の中で

 

  誰もいるはずのない部屋の中で、ぼんやりと灯りもつけないままでベッドの

上でひざを抱えて座っている。

 (嫌な夢見たんだ、ここにお前がいてくれたらな…)

真夜中に、不意に目が覚めた夜。運の悪い事に月も姿を見せぬ夜。

真っ暗闇の中、遠くから聞こえる車が時折通り過ぎる音だけが、

誰かが存在している事を教えてくれていた。

 もう一度、寝直そうと毛布を頭のてっぺんにまで掛けて目を閉じる。

毛布の暖かさだけが、俺が生きているって事を俺に確信させてくれてた。

諦めて起き上がって、窓を少し開けてみた。刺すような冷気が身に染みる。

  (冬は嫌いだ、嫌な思い出はいつだって冬にあったから)

 窓を開けた事を少し後悔しながら、枕元の灯りを一番弱いのにした。

いつもならそばにいてくれるはずの、あいつは今は遠くの街にいってる。

一人で眠るのには馴れているはずなのに、なんで目が覚めちまったんだろう。

そのまま、眠っていればいつもの朝が来てるはずだったのに。

深い溜息を吐きながら、俺は煙草に火を付ける。

ふと、灯りを消してみた。真っ暗な中に、ポッと赤い点だけが白い煙を漂わせて

俺の周りをユラユラと流れていく。

 頭の中に浮かぶのは、あいつの事だけだった。

ひとりぼっちでいればいる程、想いはつのるばかり。

鼻でふっと笑いながら、それを否定出来ない自分を嘲笑う。

何本、火を灯せば朝が訪れてくれるんだろう。メンソールの煙が目に染みて泣けてくる。

(ここに、お前がいたらきっと笑うんだろうな)

 (変だよ、サイファー。泣くなんてさ、俺はいつだってあんたの近くにいるんだから、

たとえ姿が見えなくったってさ、解んないかな? )

遠くで、声が聞こえる。弱気になった俺を困った顔で見てるスコールが。

少し怒ったような、泣きそうな表情で俺を見ている。

中毒なのは俺の方なのかもしれない。声が聞きたくなる夜に、肌に触れたい夜に、

そばにいてくれないお前に、溺れているのはきっと…。

 

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