狂おしいこの想いを

 

 日毎つのる想いを抱えているのは俺だけじゃない。

なぁ、俺の前で見せているどの表情のお前が本当なんだ?

人の中に混ざる事を好まず孤立した立場を合えて選ぶ。

自分の上に課せられた任務だけを、黙々と終らせる。

人からの信頼だけは裏切らず、一線上の距離感を取りながら。

決して昂ぶらない感情、計算づくしに見えるポーカーフェイス。

 人には踏み込ませない、心の内側への入り口。

それでも、時折見せる笑い顔に惹き込まれて、お前に取り込まれていくんだ。

誰もが認めるその甘いマスクと頑なな態度。

一体、どれだけの奴がお前への想いを抱えているのか?

知らないのは多分お前だけで。その素っ気無さがまたそそらせる

原因になってるんだろうけどな。みんながお前に付けた呼び名知ってか?

 (Cool Beauty)潔癖無敵なスコール・レオンハート。

上手く付けたもんだなと、口笛を吹いた俺。

お前の表面上しか知らない奴らはみんな、そう呼んでる。

 

 笑うなよ、仕方ないだろう、お前は自分を知らな過ぎるからさ。

俺だけに見せているのはどの部分のお前なのか、真剣に問いかけてみたくなる。

 

  …俺の心を疑うと言うのなら、切り裂いて取り出して見せようか?…

いつものような笑顔のあとで、急に真顔で瞳を覗きこんでくる。

その瞳の妖しさに魅せられて、引きずり込まれていくのは俺の方?

 白い指がシャツのボタンを一つずつ外していく。

カーテンの隙間からの月灯りがお前の動きを照らし出していく。

ゆっくりとシャツから、腕を抜いて床に静かに落とした。

 ポケットの中から取り出したのは銀色のサバイバル・ナイフ。

ゆっくりと刃を開いて、そっと俺の手に握らせた。

 …心って何処にあるかさ、俺、知らないんだ。ホラ、よく胸が苦しくなる

 時とかってあるじゃないか、だからさ、俺のココ、開けてもいいよ…

 …何言ってんだ?お前…

 …それにさ──そしたら俺は永遠にあんただけの物だよ…

 …カラン… と俺の手の中からナイフが落ちる。

 その白い胸を開く?なんでそんな事が俺に出来るんだ。

 …俺が悪かったから、そんな事を口に出させてごめん…

 …だって、あんたは信じないんだろう?どうしたら信じてもらえるのか…

スコールの瞳に映っているのは俺だけなのに、なんで疑ったりしたんだろう。

そっとその頬に手でひきよせて、瞳をじっと見つめたまま言葉を失う俺。

 …じゃぁさ、約束してよ。もしあんたが俺の前からいなくなる時に、これ使ってよ…

そのナイフを拾いあげて、俺の机の引出しにしまい込む。 

 …そんな時が来るはずないだろう…

 …保険掛けとくんだ。俺自身のバランスのためにね…

 …?…  …あんたにハマリすぎたままじゃ、やばいだろう…

 ニヤリと笑ってゆっくりと唇を重ねてくる恋人。

背中に指を回しながら、ベッドに倒れ込んだ二人。 

細い鎖骨から胸にかけてゆっくりと唇を這わせていく。

首筋から背中へと唇を移すと、微妙な反応を示すスコール。

 …知ってるよ、お前、背中弱いんだったよな…

 誰にも見せない表情を、この瞬間にだけは見せるから。

だから俺は、何度もお前を求めたくなるんだ。

厭くる間も開けずに。重なっているのは身体だけじゃないと、

心もおなじように重なっていると、錯覚でもいいから思っていたいんだ。

 

 

           END

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