| ──こんなに愛しているのに─
人込みの中からあんたを探すのなんか、簡単な事だった。 回りと決して混ざることのない、違和感でもない、オリジナリテイな 存在感をいつも、身にまとってあんたは立っているから。 一度、そう言ってみたら、あきれた顔で相手にもされなかったが。 駅の壁にもたれて、風をよけるようにして煙草に火をつける。 グレーのコートがよく似合っていた。
不意に、振り返った瞳とぶつかった次の瞬間、くわえ煙草のままで ゆっくりと人込みをすり抜けて歩いてくる。 「遅いぞ、お前らしくもない」 「ごめん、最後の仕事にちょっととまどっちゃって」 「怪我したのか?その手」 俺の手に巻かれた包帯を素早く見つけて、問いかけてきた。 「かすり傷だよ、すぐ治るよ」 「気をつけろって言ってるだろう、一瞬が命取りになる」 「解ってるよ、班長」 心配そうなサイファーの顔がぼんやりとぼやける。
今日最後の任務を終えて、急いでいた俺の前に届けられた箱。 「何だ?これ」「さぁ、あなたにって頼まれただけ」 「カサッ」何かが動いてる音がする。 「動物でも入っているのかしら?」警戒するような、俺の瞳を見て 届けてくれた同じシードの女の子が、代りにその箱を開けた瞬間。 「シューッ」嫌な音がした。 「開けるな、蛇だ!?」「キャーッ!!」 咄嗟に、彼女を突き飛ばした瞬間、激痛が右手に走った。 「スコール、早く血清を」近くにいたゼルのナイフがその蛇を突きさしていた。 シードは日頃からの訓練で毒にも身体を慣らしてはいた。 そうでなかったら、多分かなりの重症だったのだろう。 咄嗟に、傷口から毒を吸いだしながら、心臓に近い場所をきつく縛りつける。 「急がないと、あいつが待っているんだ… 」 「スコール?早く医務室に」「一体、誰が?」 「頼まれたのよ、小さな女の子に」 段々、意識が遠くなっていくのがわかる。
気が付くと、目の前に心配そうなサイファーの顔があった。 「あれ?今、あんたの夢見てた」 …なんだあれは俺の気持ちが見せた夢だったのか…
「贈り物に心当りは?」 「さぁね、こんな仕事してたら日常茶飯事だから」 「お前、解ってるのか、死にかけてたんだぞ」 「そんな大袈裟な、ただの蛇だろう」 「ただのじゃない、普通の人間なら噛まれたら100%死にいたる猛毒のだ」 「あれが?」 「あんな物を送ってくるような人間は、そういやしない。 心当りはあるんだろう」 「ありすぎて、誰かなんて確定できやしない」 「ごめんなさい、スコール、私が確かめもせずに開けたりしたから」 「君に怪我は?」 目にいっぱいの涙を浮かべた女の子は心配そうに覗きこんだ。 「私は、大丈夫。もしあなたに何かあったら」 「気にすんなよ、たいした事じゃないよ。もういいから部屋に戻って」 いつのまに、自分の部屋に帰っていたんだろう。外は真っ暗になっていた。 「今何時?」「午後8時だ」 「俺、そんなに寝てたんだ」 「シードをしていると、こんな事があるのは解ってはいるんだ。でも、嫌なんだ 俺の知らない所でお前が傷付くのが」 「サイファー、ごめん、心配かけて」 「俺の知らない間にもしお前がいなくなるなんて事になったら、 俺は、自分の死すら恐怖した事はなかった。なのに、今日は… お前を失うと思った瞬間、震えが止まらなかった」 「…よけるのが下手なシードでごめん」 俺の傷口の部分にそっと包帯の上から唇をあてた。 「痛かっただろう?」 「サイファー」
指をその金色の髪に絡ませ、そっと頬をひきよせてkissを交す。 最初は、その存在を確かめるように遠慮がちなkiss。 そして、安心したように少し唇を開いて軽めのDeep・kiss。 何度唇を重ねても、心の乾きまで癒される事は出来なかった。 「う…ん。サイファー、苦しい」 激しいkissの嵐を抜け出して、やっと声が出た。 「駄目だ、こうしていないと不安なんだ。頼むからジッとしててくれ」 そっと、その瞼に唇を寄せて流れた涙を吸い取る。 「愛してる、ずっと、これから先もずっと…」 唇が、行き場を探すように首筋を捉える。 全身を貫くような高揚感が高まり始める。 その唇で優しく触れられるだけで、何も考えられなくなっていく。 唇が重なるたび胸の奥が苦しくなり、情熱のままに繰り返される愛撫。 シャツのボタンを不器用な手つきで外しながらも。 唇は重なったままで、子供のように身体を求めてくる俺の恋人。 二人でいるのに、こんなに不安になった最初の夜。
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