告白・・スコールのつぶやき・・

 

突然の、サイファーからのKISSに驚いたのは確かだった。

何度、夢見たか解らないシーンが突然目の前に広がったのを、

どう、受け止めたらいいのかすら解らなかった。

いつからなのか、俺がサイファーの姿を目で探し始めたのは。

シードの授業中のサイファーは、周りの連中より飛びぬけて見えた。

流れる汗をぬぐおうともせずに、組み交される剣を躱す様が目につく。

光る汗が、太陽の下で眩しいほどに心に刻まれた。

一瞬視線があった時、不敵な笑みを浮かべてすぐそらされた。

このバラムガーデンで、こいつと剣を交わして無傷だった奴はいない。

この俺でさえ、額に多分一生残る傷をつけられた。

一瞬の隙を付かれた。そうあの一瞬に、俺はサイファーに心を奪われたんだ。

男を綺麗だと思ったのは、生まれて初めてだった。

次の瞬間、焼けつくような痛みを額に感じた。

ためらうような表情を浮かべたサイファーの顔が浮かんで消えた。

俺は、どうやら意識を失っていたらしい。

それからなのか、それ以前なのかすら俺には区別出来ないほど。

心を一人の人間に奪われたのは、初めてのことだった。

それからは、瞳の片隅でサイファーを探している俺に気付いた。

奴には、気付かれずに探す事なんて、普段からポーカーフェイスの

俺には、簡単な事だった。そんな気持ちをなんと呼ぶのかも解らないままに、

時だけが過ぎていった。そして、サイファーからの突然の告白。

隠しつづけた心を押えつけるのに必死だった。

・・ これは夢なんだ、願い過ぎた思いが見せた幻なんだ・・   

サイファーが冗談を言ってるんだろうと思った。

本気にしたら駄目だ。その瞬間きっといつもの冗談だとかわされる。

いつもとは違うその態度に気付き、その場に立ち尽くすしか出来なかった。

今なら、きっとこいつの心を手に入れる事が出来るんだ。

そう思った時には、自分からサイファーへとKISSを返していた。

驚いたサイファーの顔が忘れられなかった。

俺の手の中で、信じられないと言う表情で立ち尽くすその姿が。

今夜俺の手に入るのか、それともあいつの物になるのか。

それはどちらでも良かった。恋は惚れた者勝ちなんだと嘯いた奴が、

昔いたのを何となく思い出した。

 

 

ドアをノックする音が聞こえた。平静を装って返事を返す。

部屋の灯りを点けずにいたのは、表情を読みとらせないため。

青白い月灯りの下、口元に笑みを浮かべたサイファーがいた。

その青い瞳の中に映る自分をみつけた。・・今、こいつの瞳の中には、

俺しか映ってないんだ。その深い瞳の中に閉じ込められたい・・

そう思った瞬間、俺の中で何か一つ箍が外れるのを感じた。

男に抱かれる日がくるなんて、思いもしていなかったから、少し

ためらいはあった。それでも嫌悪感は浮かばなかった。

サイファーの指が触れるのは好きだった。ゆっくりシャツのボタンを外す指。

その唇が、首筋に触れると全身に不思議な感覚が走った。

声を押さえるだけで必死だった。優しい愛撫を素直に受け入れる。

胸元に残された、KISSの跡、指が一つ一つ辿っていく。

・・一つは恋で、二つは愛で、じゃぁ三つめは何なの?・・

薄れる意識の中でリノアの声が途切れた。

それは、全身を貫くような痛み。サイファーの背中に手が触れた。

爪がその肩に食い込むのをためらった。一瞬目が合った瞬間の頷きに、

押さえていた痛みと声が、同時に漏れた。その背中に腕を回して、

呼吸を合わせて、痛みが過ぎるのを待った。

瞳からこぼれる涙の意味を聞きそびれてしまったのは、心で解ってしまったからなのか。

告げてしまった告白の重さ。永遠なんてありえないと気付いている二人。

明日は、どうかなんて、きっとどうでもいい事だから。

月灯りの中、二人交わす唇の感触、壊すのは簡単なこんな世界で、

出会ってしまった事を今は感謝の想いを込めて。

そっと額に触れた、指の優しさを大切に心に刻み込む。

END