|
告白 何故かなんて、判らなかった。スコールがそばにいてくれさえしたら、それで良かった。 他の事なんてどうでも良かったんだ。そばで眠るスコールの姿を横目にしながら 煙草に火を付ける。そう、この一時を至福の幸福と思える自分に、何故か涙がでてきた。 「どうした?泣いてるのか?」 ふいに、目を覚ましたスコールが、起きあがり顔を覗き込む。慌てて煙を吸い込み、 わざと咽せ込みながら、その髪の毛に指を絡ませ胸に抱きよせる。 目まで掛かりそうなその黒髪をかきあげ、額にキスを一つ。 クスっと気持ち良さそうにされるがままに、胸に寄りかかってくる。 「さっき、泣いてたんじゃ」「煙が目に染みただけさ」 まだ何か言いたそうに唇を開きかける。「それよりさ、昨夜の続きしようぜ」 そのまま、唇を重ねベッドに押し倒すと「 サイファー!」 形のいい薄い唇が俺の名前を口にする。唯それだけが嬉しかった。 いつまでもその声を聴いていたい。永遠にこのまま二人で、こうしていたい。 SEEDなんて、この世界なんてどうでも良かった。 でももうじき、次の指令が下りるのを二人とも知っていた。 今こうしていられても、明日も同じだと言える保証は何処にもない。 人のぬくもりを心地よいと感じたのは生まれて初めてだった。 そう、初めてスコールに会ったあの時から俺は変わり始めたんだ。 俺達が出会ったのはあの古い孤児院だった。 キスティス、ゼル、アーヴァイン・・みんなここで育ったんだ。 あの日スコールがママ先生に連れて来られた日の事を覚えている。 まだ小さいくせに、泣きもせずにママ先生に手を引かれて、 ここにやってきた両親を亡くしたばかりでつらいはずなのに、唯ぎゅっと唇を噛みしめて立っていた。 どこか、冷めた目をしていたスコールに、俺はついちょっかいを出しては、ママ先生に叱られてばかりいた。 スコールのその目に映って来た過去を俺が消してやりたかった。子供ながらにそう思ったのが、始まりだった。
俺のそんな気持ちを恋と呼ぶのだと、気付くまでに何年もかかった。 真っ先に気付いたのは、多分キスティスだった。 ある日のこと、食堂に行きかけた俺を追い越しかけて立ち止まった。 「ねぇ、サイファー、あなた隠してる事があるでしょう。」 意味ありげに真下から、俺を見上げて言った。 同じ歳のくせに、やけに大人びた感じがするのはキスティスが人一倍努力家で、 学校でも一目おかれるほどの存在だったからかもしれない。俺達SEED候補生の教官をしてるせいも あるのだろうが。「何だよ。変な奴だなぁ」 ジッと俺の目をみつめ、視線を左手のひとさし指をクルクルっと回して、 指した扉の隙間から見えるスコールに向けた。 「当りでしょう」口元に小さな微笑みを浮かべた。 窓から差し込む光が、スコールの姿を優しく包みその姿を際立たせていた。 「いつも見てるじゃない」俺の気持ちを見透かしたように、小声でつぶやく。 「馬鹿言うなよ。男だぜ」「そんな事気にするなんて、サイファーらしくないな」 右手を上にして腕を組んで壁にもたれている。 「キスティス」「あたしもなの」「?」 「あたしも、スコールの事見てるから、彼綺麗でしょう。 決して、派手な訳じゃないけど、彼がいると、そこだけ違って見える」 「・・・」「あなたもそうでしょう。だからいつも、見てたんじゃないの?」「違う!」 キスティスの言葉をさえぎると、俺は食堂には入らずに、 そのまま、今歩いて来た廊下を戻り始めた。 「食事はどうするの?」「いらねえ!」 困ったように首をすくめてキスティスは食堂に入って行った
背中ごしにその気配を感じながら、自分の気持ちに驚いていた。 キスティスの言葉は真実をついていた。 気付けばいつも、スコールを探している自分がそこにいたからだ。 何処にいても真っ先に、瞳が捜してしまう。そこにスコールの存在を確認すれば安心していられた。 そのまま、寮の自分の部屋に戻った。ベッドに寝転がると、コンポのスイッチをONにし、 ヘッドフォンを耳にあてる。頭の中で、昔流行ったパンクロックが、響いていた。そのまま眠ってしまったらしい。 誰かが、毛布を掛けてくれた気がして目が醒めた。 うっすらと目を開けると、目の前にいきなりスコールの顔があった。 「ごめん。起こした?風邪ひくと思って」「・・・」 (夢を見てるのかと思った。続きを見てるのかと) ボーっとしたまま手をのばしてスコールの頬に触れてみた。 (柔らかい)ハッとイキナリ目が醒めた。あわてて手を離すとベッドから、飛び起きた。 「俺、寝てたんだ。・・・なんでお前ここにいるんだ。」 「お前が、呼んだんじゃないのか」「えっ?」「キスティスがお前が捜してたって」 ふと目をそらした俺の頭の中でキスティスの笑い声が響いた。 ・・やられた・・その姿に俺は白旗を振って返した。 「サイファー?」「珈琲でも入れてやるよ、待ってろ」 ベッドから降り隅のキッチンから、サイフォンを出し準備し始める。 沈黙が息苦しかった。今までそんなに意識してなかった分だけそのギャップにとまどう。 (どうしちまったんだろう。俺) CDのスイッチを入れカップに珈琲を注ぎ、渡した。 「ありがとう」香りをかいで一口飲んで、 「ブルーマウンテンか。サイファーらしいな」と言った。 二人とも、黙って流れる曲を聴いていた。沈黙を破ったのは、二人同時だった。 「あのさ、本当は」「スコール」 タイミングの悪さに、先にスコールが苦笑し、「用って何?」と切り出した。 「たいしたことじゃないさ」「そう。・・・じゃっ、帰るよもう遅いし、珈琲ご馳走さま」 いつもの俺の気まぐれと取ったのだろう。 それ以上問いただすこともせず、立ち上がるスコールに声をかけた。 「悪かったな」「今日はあんたらしくないな。、誤るなんてさ」 「そうか」スコールを送ろうと俺も立ち上がった。 その拍子に、手がテーブルのカップにあたり、 ゆっくりと落下していった。ガッチャーンと割れる音が響く。 「やった」かがんで破片を拾おうとするスコール。 「いいよ、後でするから」「痛っ」 カップの破片がスコールの指に傷をつけた。 「だからいいって言ったろう」「平気だよ、こんなの」 有無を言わせずその手を掴んだ。 力を入れたら折れてしまいそうな細い手首に内心驚いた。 薄らと血がにじむ指を、じっと見てカケラが残ってないか確かめた。 「破傷風も、馬鹿に出来ないからな」 そのまま、自分の口に指を含んだ。驚いた顔をして、されるままになっていたスコールは、 慌てて手をすっこめようとしたその顔が、少し赤くなっているのに気付いた。 スコールは急に立ち上がり、そのまま部屋のドアから走って出ていった。 (参ったな)一人取り残された俺は、散らばった破片を片付けた。
気付いてしまった気持ちを封じる事は、もう出来なかった。 (あいつは、男なのにな。俺ってホモだったのか) 少しの落ち込みが、俺を打ちのめした。 (そんな事気にするなんて)またキスティスの声が響く (そんな事か)どう考えたって、答えは見つかる筈もなかった。 この頃、スコールがやけに俺を避けるようになった。妙な壁があるような気がしたそう多分あの日からだ。 曖昧な雰囲気が漂うのに痺れを切らした俺は、強行突破に出る事にした。 でもどうやって?) あの日から、一週間が過ぎた。 そんなある日(幸運の女神はどうやら、存在するらしい) 寮の裏庭の木の下で、もたれて眠ってるスコールを見つけた。 (こいつも、ここが好きなのか) その場所は小高い丘の上にあってそこから、遠く海が見えて俺の好きな場所だった。 よっぽど疲れてるのか、気持ち良さそうに寝息をたてている。 秋の風が心地よく吹き、声をかけるのも忘れて俺はその寝顔に見惚れていた。 クラッとスコールが木から崩れそうになって、咄嗟に俺は手をのばして支えた。
横に座ってスコールの頭を肩にのせた。それでも目を覚まさなかったから、 そのままの姿勢でしばらく付き合ってやる事にした。 (無理もないな。この所シードの試験を受けるため、こいつろくに寝てない筈だ) 前髪を風がもて遊んでいる(こいつ、本当に綺麗な顔してんだ) ふと、その目を覚ましてやりたくなった。ここにいる俺をその目に映してみたくなった。 顎を捕らえ唇へ薬指で触れてみた。冷たい感触。唇でかすかに触れた。 そっと触れるだけの小さなキス。本能のままに、もっと強く唇を奪った。 女とはした事はあるけど、男相手にdeep・kissをしたのは初めてだった。 その腕の中のスコールの身体がビクっとなつて目がゆっくりと開いた。 「んっ!?」 顔をそらして、状況が今一つつかめずに困惑した表情を浮かべた。 次の瞬間にやっと把握したらしく恐ろしく綺麗な顔で 「何してんだよ。女と間違ってんじゃないか」 ここで逃がしたら、もう二度とチャンスはない事に気付いた俺は 掴んだ腕を引き寄せそのまま地面に押し倒した。 「やめろよ、冗談だろう。サイファー」 「冗談でこんな事出来るかよ。俺じゃ駄目か?」「えっ」 上から、押さえ込まれた形で身動きもとれず真面目な顔で問われて、 「どういう意味だよ」とやっと返してきた。 「そのままさ」また、唇を重ねる。「痛っ」 唇から、血がにじむ。思いっきりの反撃が、返ってきた。 「やるじゃないか。俺を怒らすなんてな」 手で、血をそっと拭うと俺の真剣な表情から、スコールはやっと自分の立場の悪さに気付く。 身長の差、運動力、腕力では、俺の方が遥かに勝っていたからだ。 「さてと、ここじゃなんだから、俺の部屋に来るか・?」 「なっ」「俺はいいんだぜ。ここは誰もいないし」 「離せよ」「やだね、嫌なら俺を倒して行けよ、やれるもんならな」 俺の、腕の下で精一杯の抵抗を試みるスコール。 (俺がお前を放す訳ないだろう) そんなスコールを見ながら、唇を首筋に這わせる。 形の整った小さな耳たぶに息を吹きかけた。 スコールの身体が、ビクッと反応した(へェ、こいつ反応してる) 「やめろよ、そんな事するなよ。俺にかまうなんてあんたらしくないじゃないか」 「俺らしいって何だよ。お前に俺の事が解るのかよ、 いつも俺には関係ありませんって顔してたお前に」 「何言って?!」「お前になんか解るもんか」 突然の俺の返した言葉の意味を、計りかねて戸惑いの表情を浮かべた。 「あんた、本気なのか」「冗談でこんな事出来るかよ」 「解ったから、力抜いてくれよ」 そう言われてスコールの手首を持つ力を緩めた。 「あんた、力あるから」 薄らと赤くなった手首を見ながら、スコールが聞いてきた。 「俺と、寝たいの?] ストレートな問いかけ。言いにくい事をさらっと口にする。 「俺にも解んねえよ。そんな事どうだっていいんだ。 唯、気付いたらいつもお前を捜してるんだよ。この俺がだぜ。情けねえよな。」 ゆっくりと、身体を起こすスコール。 「行っていいぜ。暫く一人になりたいんだ」 (それは、俺の精一杯の強がりだった) だから、次の瞬間のスコールの行動が信じられなかった。 くいと、顎に手がかかり眼の前にスコールの顔があった。 その唇がゆっくりと、俺の唇に重なる。少しためらいがちなフレンチキス。 「俺の部屋に来いよ。今夜、食事が終わったら」 そう言い終わると、振りかえらずに寮の方向に歩いていった。 唯、呆然と立ち尽くす俺を残して。いつのまにか立場が逆転してるのにやっと気付いた。
寮の食堂で、遠くに座ったスコールを見つけた。一度、視線があったが自然に外された。 俺は上の空で食事を取り、このざわめきの中から早く離れたいと思った。 部屋に戻って、シャワーを浴びながらスコールの事を考えていた。 (あいつを俺のものにしたい)真剣にそう願った。 (今夜、あいつと寝るのか?)いろんな思いが頭の中を駆け巡る。 10時。消灯の時間になると、班長が部屋の点呼にくる。 サイファーいるな」「ああ」「よし、次」 人の気配がドアの外から消えたのを確かめて、俺はそっと鍵をかけた。 3階にあるスコールの部屋の前についた。鍵は開いていたからそっと中に入った。 部屋の中は薄暗くて、馴れるまでに暫く眼を閉じた。 カーテン越しに盛れてくる月明かりが、部屋の中を照らしていた。 「スコール?」そっと呼びかけると、 「鍵掛けとけよ」窓の外を眺めていたスコールの声がした。
月灯りに照らされた、スコールはやけに綺麗だった。 俺は、訳もなく高鳴る鼓動を押さえるのに必死だった。 薄い白いシャツを引っ掛けただけの上半身、挑発的なその眼差し。 俺は、何か侵し難い神聖なものを見ているような気がしていた。 「何、ボーっとしてんだよ」「えっ、ああごめん」「誤る事じゃないけど」 俺の曖昧な態度に、スコールも戸惑っているようだった。 窓際のスコールのそばに立つ。 「何、見てたんだ」「月だよ。知ってた?今夜は満月だって事」 そう言われて、カーテン越しに、青白く輝く月をみあげた。 「諺のさ、満月は人を狂わすって本当だと思う?」 吸い込まれそうなその瞳に囚われ(狂わされるのは、俺の方なのか) 見詰め合うその眼差しが、絡み合った時、どちらからともなく唇を重ねた。 唯、静かなまるで普通の恋人同士が、初めてするキスのような。 そのまま、俺はスコールを抱きしめる。力を入れれば折れそうに薄いその身体を。 ゆっくりとベッドに倒れこむ二人。一瞬、俺はためらって聞いた。 「本当にいいのか」 そう口にしながらも俺の手はしっかりと その身体を押さえつけていた。 耳元でそう囁く、,かすかに腕に力がこもったのを感じた。 その耳たぶに息を吹きかけその反応を楽しむ。 シャツのボタンを指で外し、その素肌に触れる。 その白さに少し驚く。(俺なんか少しの陽射しで真っ黒に焼けちまう) 元々の体質なのだろう。首筋から背中のほっそりとしたラインが綺麗だった。 (女とやってるみたいだ) ズボンのボタンに手を掛けた時、反射的に手を押さえられた。 「あっごめん」観念したように、眼を閉じる。 ゆっくりとズボンを脱がし、片手で、背中を愛撫しながら、スコールの足を開かせた。 優しく、指で包みこみ焦らすような愛撫を続ける。 「やっ」息がだんだんとあがってくるのを感じ、唇を手で押さえて堪えている。 「我慢するなよ。誰も見てないさ」 (そう、今ここにいるのは、二人だけだった。月だけが、俺達の事を見ていた) 月の光に映し出されたスコールを見た時、 もう次の瞬間に俺の中にあった理性が砕けるのを感じた。 もう何も考えられなくなっていた。俺の中の欲望が剥き出しになる。 そのままその衝動に耐えきれなくなっていた。 気付くと、俺の腕の下で、苦痛と快感を同時に与えられたスコールがいた。 その姿があまりに、愛しくてたまらなくなった。 「愛してる」初めて口にした告白。硬く閉じられていた眼から、涙が一筋こぼれ落ちた。 「知ってた?俺もだよ。ずっと愛してた」 嵐のような時間が過ぎ、やがて二人は静かな眠りに落ちる。 俺は、指をゆっくりその頭の下に潜り込ませ、そっと胸の中に抱き寄せた。 静かなスコールの寝息が、俺をゆっくりと夢の中に誘い込んでいく。 誰かと肌を合わせる事が、人を幸せな気分にしてくれると俺は初めて知った。
|
