忘却…思い出した過去…

 

 … 好きで忘れていた訳じゃぁないさ…

俺がお前の事を忘れたりするはずがない。

俺の記憶の中で、一番輝いてるのがあの孤児院の頃だから。

 …じゃぁ、何故?…

 …何故って?それは…

 

 覚えているのは、お前のすがるような子犬のような目と

陽気に笑う声の無邪気さ、か細い肩が震えてた事。

俺の大好きだったスコール・レオンハート

 

 いつのまにか離してしまった手、握りしめていた手の温もり。

あの日、何処かに連れ去られていった小さかったお前。

俺達は皆、あの島に親に見捨てられて引きとられていったんだ。

俺もキスティスもアーヴァインも、ゼルにセルフィ…そしてスコールお前もだ。

ママ先生に、一番最初になついたのはアーヴァインだった。直に、セルフィも

犬っころのようにママ先生の回りに絡みついていった。

 

 スコール、お前は少し離れた場所からじっとその光景を見ていた。

自分から入っていくきっかけを探してためらっている姿。

俺は、鼻っから仲間にまざるつもりはなかったから、わざとお前に冷たく

当ったこともあった。泣きべそをかいたお前が、

やけに可愛く思えた自分の気持ちが

子供ながらに不思議だったのをぼんやり覚えている。

そんな、泣きべそのお前を引っ張って輪に入れたのがキスティスだったな。

あいつは、昔っから姉さんぶるのが好きだったから。

 

…なんだ、覚えてるじゃないか…

 …封印するしかなかったんだ、お前が連れていかれたあの時に…

 …あの時って?…

まだ、幼かった俺達を見知らぬ大人達が囲んで実験を繰り返す。

 「こいつは駄目だ、んっ、この子はいい素質を持ってる」

 「では、次、この子はあのガーディンへ、お前は駄目だ」

人を、物か動物かのように扱いやがった。

小さなセルフィは怯えて泣きじゃくり、アーヴァインがそっとなだめる。

キスティスは、じっと歯を食いしばってママ先生の方をキッと見ていた。

ゼルは、奮えてる自分を見せないように、拳をギュッと握りしめていた。

そして、お前はすがるような目を一瞬ママ先生に向けた後、

諦めきった表情で、あるがままを受け止めようとしていた。

 

 …その時、あんたはどうしてたんだい?…

 …俺は、あの時どうしてたんだろう?確か…

そうだ、あの時、なんで放しちまったんだろう。

スコールの手を無意識の内に掴んで、俺は走りだしていた。

何処に向かってなのか、何故それがスコールだったのか。

不意を付かれた大人達の間を縫って、俺達は走り続けた。

今捕まったら、もうこいつと一緒にいられなくなる。

その時になってやっと解ったんだ。俺、こいつの事が好きなんだって。

息堰ききって走ったから、先にスコールの足が止まった。

荒い息を吐いて、びっくりした目で俺を見ていた。

 「一体、なんなんだよ、なんでこんな事」

肩で息をしながら、やっと俺も地面にへばりつくように座った。

何か云いかけたその言葉を待たずにギュッとその細い肩を抱き締めていた。

「 サイファー?どうしたの?」

とまどう声が頭の中で回る、ずっとお前の声が聞こえる場所にいたいんだ。

どうしても、言い出せなかった言葉。ずっとお前といたいと。

遠くで、誰かの声が聞こえた。ママ先生の呼び声。

 「いたぞ。こっちだ」「まったく、手間をとらせる子供だ」

 「サイファーはとてもいい子ですわ。お言葉を返すようですけど」

泣き叫ぶセルフィを、抱き上げたママ先生が俺のことをかばってくれた。

俺は最後の力を振り絞って、無意味な抵抗を繰り返す。

 「こいつはなかなか面白い子だ。お前は、俺と来るんだ」

乱暴に頭を殴られた瞬間に俺の意識は飛んでいった。



気が付くと、全然知らない殺風景な部屋の中、誰もいない暗闇。

初めて、ママ先生の所に行った時よりもずっと孤独だった。

誰も助けてくれない、すがれるのは自分だけ、

倒した者だけが生き残る事が出来る。

俺はそんな風にここで扱われて育ったんだ。お前と別れてから。

だからなのか、俺がこんなに大事なお前のことを忘れるなんて。

そうでもしなかったら、心を閉じなかったら生きていけなかったんだ。

 

 …俺もそうだったよ…

 …スコール…

忘れてしまった分だけまた愛せばいい。

過ごしてきた孤独な時間は、これからまた取り返せばいい。

今ならまだ間に合うから。もう二度とその手を放さぬように。

 

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