Bargaining

 

  「約束だよ」

 そう言って、手を振って向うの角に消えていったスコール。

 「約束…か」

 そう言ったって、なかなか守れないのが約束って物じゃないかと

 口の中でぼやいてみせた。

 「言葉じゃ、心までは縛れないさ」

 事の発端は、俺が吸っている煙草が偶然見ていたTVの中で

 ガン発生率bPにあげられていた事から始まった。

 

 「あれっ、今の煙草、それじゃない」

 「何?なる奴は吸ってなくったって病気にかかるさ」

 「煙草、出せよ」

 「 …吸うか ?」               

 「馬鹿っ、取り上げるに決まってるだろう」

 真剣なスコールの目に、苦笑しながら大人しく煙草を差し出す。

 「俺の事、好き?サイファー」

 珍しく甘いことを聞いてくるスコール。

 「好きだよ」

 「じゃぁっ、煙草やめれるよね」

 「スコール、それと煙草は…」

 「サイファーが、煙草やめれるまで、もう会いにくるな」

 「マジで言ってるのか?それって」

 「解ってるよ、こいつがお前にとって精神安定の薬だって事は…」

  (やれやれ…)

 煙草を、灰皿の上で揉み消して、大袈裟に俺は溜息をついた。

 「それじゃぁっ、俺だけがリスク負っちまうから、お前の方は?」

 「俺の?」

 「当然だろう。俺だけじゃぁ、埒があかない」

 「じゃぁっ、サイファーがやめるまで俺はここに来ない」

 「それはないだろう。それじゃ俺の方が二重の…」

 「だって、サイファーは俺の精神安定剤なんだぜ」

 ニッコリ、笑ってそう言われたら返す術もない。

 「じゃぁ、先に根を上げた方が負けって事で」

 「お前が負けたら、俺を捨てるってのか?」

 「まさか、煙草やめなくてもいいよ、先にサイファーが煙草吸ったら…

 だって、これはお前のためにやってる事なんだから、俺に罰則付ける意味がない」

 「それって、吸ってないって言えばそれまでだぜ」

 「嘘は、お前はつかない」

 (大した信用ぶりだ…ったく…) 

 「お前も、俺の所に来るなよ、じゃ、俺帰る。ゲームの幕開けだ」

 「ち…ちょっと待てよ。今から始まる訳」

 「サイファーの健康のためだろ」

 「じゃぁっ、宣戦布告だ」

 そう言うと、暫らくは触れる事の出来そうもない(こいつの言いぶりでは)

 何か言いかけたスコールの唇を、指で止めてそのまま頬をひきよせてキス。

 開きかけた隙間から、舌で強引に責めたてるとスコールの

 身体がビクッと反応して、足元が少しふらつきはじめるのに

 数秒かからなかった。

「やっめ…」 「駄目だ…今やめたら夜が眠れなくなる」

 胸の開いたシャツからそっと、指をすべりこませる。

 冷たくて、細いその背中をゆっくりとなぞり始める俺の指は

 お前の泣かせ方を、知り尽くそうと踊るように動きはじめる。

 「クッ…イ…もう…」

 「まだだ、まだイカセテやらない。お前に俺を刻みつけておくまで…」

  シーツに包まった中で、我慢して唇を抑えるスコール。

 「お前に、俺がやめれるのか?」

  「サイ… 愛して…ル…」

 何度、スコールを抱いても俺の心は乾く事なくお前を求める。

  それから、2時間後…

 元気な笑顔で手を振って去っていくスコールの姿があった。

 人の気も知らないで。 

 

 後日談…賭けの勝敗? 禁断症状に囚われかけた俺に

 優しい天使さまから白旗が送られてきたって事にしとこう(笑)

出来ない賭けなら振ってこなけりゃいいのにと、笑って許してやる俺も

 俺だけどさ。

 

 

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