月下美人の咲く下で 

 

 「スコール…」 「なに?」

 「ちょっといいか?」

ドアを開けると、そこにはサイファーが立っていた。

 「何、言ってんだよ、入れば」

視線で、部屋の中を差しながらドアを開く。

 「いやっ、ちょっと見せたい物があって」

 「何処かに、出掛けるのか?…」

誰にも、気付かれないようにそっと鍵を掛ける。

今は、真夏の夜、先を歩くサイファーの背中を見ながら歩く。

裏庭を抜けて、辿りついたのは温室。ここの植物園は見事な花を

いつも咲かせて、生徒達の憩いの場となっている。

研ぎ澄まされた神経を休ませようと、学園長お達しで作られた温室。

…でも、なんでこんな所に、こいつが来るんだ?…

 「ワッ…」

いきなり、立ち止まったサイファーの背中に顔をぶつけた。

 「急に止まんなよな」

 「しっ、静かに…見てみろよ」

指差した先には、白いつぼみが少しずつ開きかけていた。

ゆっくりと、頭を上げるかのように花はそこに存在していた。

 「これって、月下美人の…」

 「たった一夜しか咲かないって云うから、お前に見せてやりたかった」

天井から差し込んでくる月の光りに照らされて、一夜の命を咲き誇るその姿。

 照れて、背中を向けたサイファー。そっと手を伸ばして抱きしめる。

背中ごしに奴の鼓動が、伝わってくる。

二人で存在している時間の大切さを、こう云う瞬間にいつも教えられる。

俺が、どんなにサイファーを想っているか言葉で伝えられたらと。

振り向いたサイファーの首に、そっと腕を回して抱き寄せる。

そっと触れる唇の優しさ。軽く触れるだけのキスを何度も繰り返す。

サイファーの腕に力が入り、その胸の暖かさに包まれながら。

銀色の月が、俺達を照らし出す。真夏の夜の見せる夢のように。

月下美人の香りが、記憶の中に刻まれていく。

この瞬間を、この夜を忘れないように。

 

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