静かな午後

 

 

… こんなに簡単で良かったんだ…

 誰かに心が惹かれはじめた時、どうやって伝えればいいのか。

その接し方一つにとまどう時がある。

目線が合うだけで、身体が固くなって言葉が出てこなくなる。

ほんの少し、言葉を交わしただけで、嬉しくて眠れなかった夜。

誰かが、存在するという事がこんなに俺を強くしてくれている。

 

 サイファーの存在が何となく気になりはじめたのは、何処かで会った事が

ある気がするからなのかもしれない。

遠い記憶の奥深くに、サイファーがいるような(実際、いたんだけど)

奴のする事の一つ一つが、俺の中の何かを動かそうとしていた。

 奴もそうだったみたいだった。イチイチ俺に絡んでくる回数が多すぎる。

犬猿の仲なんだと最初は思った。俺は、サイファーに嫌われているんだと

時折ふと偶然に目が合う回数が多いのにも気付いてた。

でも、その目はにらんでるとかそんな敵意のこもった目じゃなくて、

もっと優しそうな、普段のサイファーなら絶対に見せない目なんだ。

もちろん、すぐその後ににらみ返されたけどな。

 

 サイファーとの訓練は、楽しかった。何故かって?奴は手加減をしてこない

から、ここの連中は決して本気でかかってきやしない。

奴だけは、真剣に俺に勝負を挑んでくる。

 ガンブレードを巧みに操る姿は、時々俺でも見惚れる時がある

これは、サイファーには内緒だけどな(笑)

だって、こんな事を奴に知られてみろよ、なんでも俺の上位に立ちたがる

奴なんだぜ、想像するだけで浮かぶだろう。

 もちろん、俺も奴には手加減なんてしやしない。

例え、どんなに危険でも奴にはいつも真剣な俺でいたいから。

そのお蔭で、ほらっこんな傷も…まっこれは、奴に見惚れてた俺の不覚(笑)

なんて云うのか、こいつになら殺されてもいいかなって思ったんだ。

変かな、そういうのって? 俺と同等の奴、もしくは俺以上の力のあると認めてる

奴の手にならってそう決めてるんだ。シードを志願した時にさ。

 

 先に行動を起こしてきたのは奴の方が先だった。

あの視線の意味がやっと解った瞬間。

自分の中のサイファーの存在に気付いた。

…俺も、こいつに恋してるんだ…

嬉しかったのは、二人の気持ちが同じ物だった事。

 

 そばにいるのが当たり前、言葉を交さなくても考えてる事が解る。

俺にとってはサイファーはそんな存在なんだ。

部屋の中で二人供、黙ったままでいるのに、ちっとも沈黙が苦にならない。

静かな時間を二人で過ごすのが、今の俺の楽しみなんだ。

何処に出掛けるわけでもないのに、週末の度にどちらかの部屋を訪ねる。

 サイファーのたてる珈琲を飲むのが、一番の贅沢になってる。 

これがなかなか、美味いんだ。ずっとこうしていられたらいいよな。

 

       END 

 

 

 

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