二人で

 

 ──たまには、こうやってお前と出かけるのも悪くはないな──

 

 忙しいシードにだって休日はある。めいめい好きな時間を過ごすために、

週末の時間の予定は念入りに立てて、その短い休日を楽しみにスケジュールをこなす。

 

 今回は珍しく、二人の休日が重なってとれた幸運もあって

俺達は一泊の小旅行にでかける事にした。

スコールと初めての旅行。シードとしての遠征は幾らでもあった。

でも、仕事抜きの、まったくプライベートっていうのは初めての事だった。

普段以上に、俺はその日までのスケジュールを消化しておいた。

こんなめったにない幸運を、へまなんかで流れた日には泣くに泣けないからな。

そんな俺の気持ちを知ってか知らぬか、相変わらずのポーカーフェイスぶりで

なんなく自分に与えられた任務をこなしていくスコール。

いったいどれだけの奴に本当の自分を見せているんだろう。

…本当の自分か… 俺自身が、人との間に壁を作って生きてきた。

誰一人寄せつけず信用しない、それが俺のモットーだった。

なのに、こいつに出会って、一番変わったのは俺なんだろう。

風神にある日言われて気付いた。

 「サイファー、変わった。前はそんな風に笑わなかった」

 「そうか?」

 「サイファー…」

 なんとも言えない、やりきれない表情でじっと俺を見つめて

フイッと、その場から立ち去っていった風神。

 

 スコールを見ていると、本当に幸せな気分になれるんだ。こいつにだけは肩を張らないでいられる。

本音の自分をさらけだせる。お前にだけは、嘘はつけない。

そう云えば、その額の傷も俺のせいだったんだ。

あの一瞬に、俺に傷を負わせる事にためらったスコールの優しさが俺の振り下ろした剣を避け損ねた。

 (しまった!?)

 心の中で、叫んだときには遅かった。

多分、二度と消えない傷を残してしまったのが俺の剣。

 「痛っ」

 額を押さえて、そのままスコールは意識を失った。

あの瞬間、息が止まるのかと思った、時間が凍りつき金縛りにあったかの

ように立ち尽くした俺。運ばれていくスコールを遠くから見ていた。

あの時に、俺は誓ったんだ。お前を傷付ける者は誰だって容赦しないと。

そして、二度とお前を傷つけないと。お前の額の傷に触れるたびに、あの日の自分を思い出すんだ.

取り残された孤立感、もう二度と逢えないのかと思った不安。

こんな事は、お前には一生言う事は多分ないだろう。

お前のためになら命だって捨てれると思ってる奴がいるなんて事を。

 

 「スコール」  「んっ?」

 「今度、どっか行こうか?」

 「いいよ。珍しいね、あんたからそんな事言い出すなんて」

 「そっか?まったまにはな」

 

 別に行き先も決めずに、思いつく街で降りようと二人、汽車に乗った。

通り過ぎて行く景色を、スコールは嬉しそうに眺めていた。

別に変わった景色じゃなかった、似たような街並みが飛ぶように流れていく。

でもあんまり幸せそうにスコールが笑うから、

俺もつられて笑い返すと、前の席にいたスコールは立ちあがって横の席に座った。

 「せっかく二人でいるんだから…」

照れて小さくつぶやいた。

夕暮れが汽車の窓からスコールを照らす。

疲れが出たのか、俺にもたれて静かな寝息を立てて始めた。

あまりの軽さに、俺は少し驚いた。

 「またこいつ、痩せたな」

そう言えば、この数週間、すさまじいばかりのスピードで任務を

終らせていたのをただ見ていた。

…まさか、この旅行のために? …

静かな寝息を数えながら、いつまでもこの時間が続くようにと願いをかけた。

 

 「ごめん、俺、寝てた?起こしてくれれば良かったのに」

しばらくして目を覚ましたスコールは、飛び起きた。

 「別に、起こすほどのこともないし」

 「退屈だったろ?ごめん」

 「いやっ、ずっとお前の顔見てたからいいよ」

 「ここ何処?」「さぁ?、降りるか」

 名前も知らない小さな街に俺達は降りたった。

もう街は、暗闇に包まれはじめ、窓には灯りが点りはじめる。

「どこに泊まる?」「あそこに、案内があるから聞きに行こう」

駅員が指差す方向に歩いていくと、小さなホテルにたどりついた。

部屋に入ると、わりとこじんまりとした清潔な部屋造りだった。

 「ここ、いい所だね。主人も感じ良かったし、掃除もいき届いてる」

 「そうだな。先に、シャワー浴びてくる」

 「うん、ねぇ」「んっ?」「来て良かったよね」

 「当然だろ。やっと取れた休みなんだ、楽しもうぜ」

 

 俺がシャワーを浴びて出てくると、交代にスコールはバスルームに向かった。

冷蔵庫の中から、冷えたグラスとビールを出して先に一人で酒盛りをする事にした。

 髪の毛をタオルで拭きながら、スコールが出て来た。

 「なんだ、もう飲んでたんだ」

 「あぁ、こんな日くらいはな、飲むか?」

冷蔵庫の中を覗いてワインを一本取り出したスコール。

 「俺はこっちの方がいい、乾杯しようよ、サイファー、今日の記念に」

 「そうだな、君の瞳に乾杯か」「相変わらず気障だな、サイファー」

その言葉が言い終わらない内に、スコールを引き寄せその唇を塞いだ。

激しく重ねたくちづけの意味は、その思いの深さを物語る。

どんなに身体を重ねても、心までは重ならないのをお互い解っているから

求める心だけが強くなる。愛を語る言葉の甘美さ、その唇が俺の名前を呼ぶ。

そして何度もお前の名前をうわごとのように繰り返す。

あと何回、こんな時間を過ごす事が出来るんだろう。

誰にも解らないこんな時代に生きているから。

ただ、解っているのはこの命の終る瞬間までこの思いは変わらないと。



END

 

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