雨の中で

 

「よく降るな 」

 灰色の空を窓越しに、スコールは恨めしそうに見上げる。

「雨季だからな。 自然の摂理、神様のお計らい」

楽しみにしていた遠出が、キャンセルになったのがまだ諦めきれないのか、ブツブツと

口の中で何か言っている。

「あんたが神様なんて、言うなんて」

「俺は無神論主義じゃないぜ。別に、シード業だって自分の運のみじゃ乗り切れない

瞬間がある。そんな時は、何か別の不思議な力が動いているんじゃないかって思わずには

いられなくなる。何かに守られているってのかな、もちろん幸運の女神はいつだってここにいるけどよ」

 ツイっとスコールの腕を引っ張って、頬に優しくキスを一つ。

 少し機嫌をよくしたのか、甘えるような表情で肩にもたれかかってくる。

 「まっいいか、何処に居たってあんたといられるのは同じなんだから」

 窓際のベッドの上、空から落ちる雨の雫。人はそれを無常の雨と涙し、豊穣の雨と歓喜

してきた。僕らの上にも世界中に平等に降りしきる。

 「雨って、優しいよね。時々思うんだ」

 「んっ?」

 「子供の頃さ、何でか理由は忘れたんだけど、泣いて外に飛び出したんだけど。

 泣いてるのを知られたくなくて、ちょうど降り出した雨がさ。涙も流してくれたんだ。

 こんな一人ぼっちの俺にも、同じように降ってくれる雨をそう思ったんだ」

 サイファーは黙って、煙草に火を点けてその長い指でそっとスコールの前髪を巻きつけ

ながら、小さな微笑を口元に浮かべる。

 もたれかかった肩の温もりががそこにいるんだって安心させてくれる。

 小さく口ずさむ懐かしいメロディー。

古い映画の一節。雨の中で、ステップを繰り返すアクター。

 「んっ、なんだ、寝ちゃったのか」

 深い眠りの中にサイファーの声が小さくなる… … 。

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