逢いたかったから

 

  今は、真夜中。不意にもの悲しくなって部屋を抜け出して外を歩く。

月さえも眠る今夜は、星明りだけが道を照らしてくれる。

 「もう、寝てるんだろな」

 サイファーの部屋の下に立っている俺。 寝てて当たり前なんだ、

あいつだって疲れているんだから、唯、なんとなく人恋しい気分になっただけの事。

そばに気配を感じてみたかっただけなんだ。そう自分に言い聞かせながら。

 暗い窓の中、人影がカーテンを開けた。

 「スコール? なんでこんな夜中に? 上がってこいよ」

 力強い低音の声が頭上に響く。あぁっ、この声が聞きたかったんだ、俺は。

 ためらいがちにドアをそっと開ける。暗闇の中で、あいつが笑う。

 「起きてたんだ。眠れなくなったから散歩に出てきたんだ」

 聞かれもしないのに変な言い訳を並べてる俺。

  「逢いたかったんだろ? 」

 「べっ、別に、唯の散歩に出ただけさ」

 暗闇に目が慣れはじめ、サイファーの表情が読み取れる。

 寝苦しい夜だったから、上着を着けていない素肌がやけに白く見えて、目のやり場に

少し困りながら、ちょっとドキドキしてる自分に驚く。

二人っきりになるのなんて何度だってあった。なのに、今夜はいつもと違う気がしてる。

 「ふ〜ん」

 手を軽く引っ張られて、その胸の中にすっぽりと入ってしまう。

俺ってこんなに、こいつの前じゃ無力な生き物になっちまうんだ。

 「散歩か、たまにはいいかもな」

 耳元に聞こえる心地いい響き。背中ごしの温もりに安心して力がすっと抜ける。

 背中ごしに指がなぞりはじめる。優しい指先で、シャツのボタンを一つずつ。

唇が、首筋に辿り付き、小さく息が耳元にかかる。もうそれで俺の敗北が決まる。

 「ずるいよ、サイファー」

やっと声が出た。長い指が髪の毛を掻き分けながら唇に触れた。

 小さく噛むのだけが少しばかりの抵抗。 

 ゆっくりと唇が辿りつくのを待っている。こうしたかったんだ、今夜は。

自分の中の気持ちにやっと気が付いた。触れるだけのキスを繰り返す。

誰かといたいんじゃなくて、二人でいたいって事に気が付いた夜。

 

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