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「これ、あんたに」 壁にもたれて煙草を吸っていた俺の目の前にフイッと手が伸びてきた。 「んっ? 何だこれ」 「やるってんだから早く受け取ってくれよ」 「あっあぁ。」 小さな小箱の入った袋を、俺に渡すとスコールは真っ赤になって 俺から逃げるようにして、元来た角を曲がって消えた。 …カサッ… 青いリボンで包まれた箱が入ってた。 「これって… 今日は2月14日だから、バレンタインの」 俺は、慌ててその箱を開けた。 ・・・ヒラリ… 一枚のカードが足元に落ちた。 …別に俺はこんな習慣、なんとも思ってないけど、あんたの喜ぶ顔が見たいから… スコールの少し癖のある細い文字でそう書かれてあった。 …P・S 愛してるよ…
箱を開けると、ホワイト・チョコレートと、ビター・チョコレートが 入っていた。あのスコールがどんな顔をしてこれを買ったのか。 想像しただけで、幸せな気分になってきた。 …カリッ… 「甘い…」 普段は、甘い物は一切食わない俺でも、めったにない幸運を堪能する事にした。
スコールを探しに行くために、俺は歩きはじめた。 「あいつの行きそうな場所はっと…」 途中すれ違ったセルフィに聞いてみた。 「スコール?う〜ん、見なかったよ。ふふっ、サイファーも大変ね」 セルフィは悪戯っぽく笑った。 「何だよ」 「今日はV・Dでしょう。スコールもててたよ、女の子に囲まれてた。 でも、あたしが見たのは午前中だけど」 「そう言うお前はどうすんだよ。早くしないとあぶれるぞ」 「いや〜ね。サイファー。男の子なんて興味ないわよ」 ケタケタッと笑うと、セルフィは手を後向きのまま振って行った。 「チェッ」 プレゼントの主を探して、俺はガーデン内をぶらつく事にした。 この日ばかりはシードも目をつぶっているのか、チョコレートの包みが 飛びかっていた。日頃のピリピリした雰囲気が感じられなかった。 探すのを諦めて、ガーデン裏の空き地で最後にしようと思った。 …居た。… やっと本人を捕まえた。 「ここにいたのか。探したぜ、スコール」 「…」「チョコ、美味かったよ」 まだ照れてるのか、スコールは視線を合わそうとしない。 「そうだ、お前も女の子からもらったんだろ?」 「……突っ返した…」 俯いたスコールが無償に可愛く思えた。 ここが、ガーデンじゃなかったらとっくに押し倒していただろう。 「なぁっ、スコール、お前の声で言ってくれないか?」 「何を?」「愛の告白ってやつさ」 再び、耳まで真っ赤になったスコールを見て、何故か俺までが 照れてそれ以上突っ込むのは止めにした。 グイっと腕を掴んで引き寄せて、その吸い込まれそうな瞳をじっと 見つめながら俺は自然と浮かんだ言葉を口にした。 「スコール、愛してるよ」 何度この言葉を口にしても足りなかった。やっと手に入れた俺だけの恋人。 不意にスコールの頬を涙がつたい落ちた。 「何故泣くんだ?」 「解らない、唯、嬉しくて…」 涙をそっと唇で拭うと、また新しい涙が溢れてくるのを俺は見ていた。 「俺さ、誰かにそう言って欲しかったんだと思う。 でも、お前じゃないと駄目なんだって、やっと気付いたんだ」 「何度でも言ってやるよ、お前が望むならな」 「サイファー、俺さ」「んっ?」 「俺、あんたの声好きだよ、何処にいてもすぐ解るんだ。 そこにあんたがいるんだって、不思議だよな、あんなに人が 大勢いるってのにあんただけは特別なんだ」
俺は、スコールの前髪にそっと指を絡ませて頬を引き寄せ 唇をそっと合わせ、暫らく何度かのキスを楽しんだ。 「続きは、ベッドでな…」 再び、真っ赤になったスコールに俺は横目で笑った。 |
