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ア・バオ・ア・クゥー
「何、読んでるんだ?」 「んっ?世界幻獣事典、結構面白いんだ、これが」 「世界幻獣事典って、また毛色の変わったものを」 「面白いよ、G・Fの事も出てるし」 「へえっ」 「あいつらの事を、もっと解ってやりたいしね」 「お偉いシード様の考える事は…(笑) 」 「笑うなよ、こっちは、真剣なんだから」 真剣な顔で何かを読んでいるかと思ったら、こいつの考える事と云ったら。 「で、何だって?」 「別に、サイファーは興味ないんだろう」 「そんな事、言ってないだろう」 「大した事は書いてないよ、元々、伝説を本にした物だから、 きっと、俺達の知ってる真実の方が正しいんだ」 「所詮、本は本さ」 「そこまでは言ってないけど、ア・バオ・ア・クゥー って知ってるか?」 「いや、初めて聞いた」 「じゃっ、読むね。普段は『勝利の塔』にある螺旋階段の一段目で眠っていて、 誰かが塔のてっぺんを目指して 螺旋階段を登りはじめるとそれに反応して目を覚まし、 その人間の後について階段を昇っていくんだって。 階段の上に近づく程、ア・バオ・ア・クゥーの姿は色を増し、 形が次第にはっきりし、青味がかった光を帯びはじめるという。 でも、その人が諦めて降りようとした とたんに、一番下まで転がって、姿も消えちゃうんだって。 生まれてより幾世紀、ア・バオ・ア・クゥーが塔の最上階のテラスに到達したのは ただ一度しかない、という」 本文をなんとか、俺に解らせようと簡単な文に変えながら読むスコール。 「ふ〜ん」 「で、階段の上には何があると思う?」 「天国でもあんのか?」 「その通り。あっ、でもこの天国って云うのは死んだ人が行く所ではなくて もっと上にある、つまり神様のいる場所の事だと思う」 「で、そのなんとかってのが、何か意味でもある訳?」 「別に、唯、一度しか姿を見せた事ないなんて可哀相だと思って」 「お前って奴は…世の中にはそんな聖人ってのは存在しないんだよ。 そんないい奴ばかりだったら、シードなんて仕事もいらないだろう」 …やれやれ、なんでこんなことを真面目に説明なんかしてんだ、俺は… 「G・Fに成ればいい…」 「なっ?」 「いつか、出会えるかなぁ、ア・バオ・ア・クゥーにも」 「さぁな、今までいろんな奴に会えたから、夢じゃないかもな」 「でも、その『勝利の塔 』からどうやって連れだそうかな。かなり 強力な封印かもしれないし」 「あのなぁ…」 もう別の世界に入り込んでしまっているスコール。 俺は、あきれて言い掛けた言葉も飲み込んだ。 …もしかしたら、こいつだったら、出来るかもしれない。 囚われている呪縛を断ち切られる日を待っている幻獣達。 頑なだった彼らが、少しずつ心を開いてくれたように…
ある休日、暖かい木洩れ日の中で床に寝転がって 嬉しそうに本を広げて、俺のいれた珈琲を飲む。 …クスクス…時折スコールの笑い声が聞こえる。 「サイファー? なんだ、寝ちゃったんだ。風邪ひくぞ」 遠い夢の中に、スコールが毛布をそっとかける気配。 高い塔の前に立つスコールの姿が見えた。 「見つけたよ、サイファー」 俺の方を振り返って手を振った。 嬉しそうな笑顔と少しの不安、運命の扉は開かれる。 待っていたのは… |
