だから泣かないで

  

 

 何も悲しい事は起こらないから、安心しておやすみ。

一人の夜が怖いと時々、子供のように泣きじゃくる。

それは、必ず雷雨が窓の外で木々の梢をかき鳴らす夜。

「大丈夫だから」 何度も耳元で囁いてやっと安心したように

静かな寝息を立て始める。

 暗闇の中には何もありはしないから、お前を脅かす事なんか。

普段のお前らしくない、少し甘えた表情をする嵐の夜。

一体、何がそんなにお前を怯えさせているのかを、何度聞いても

答えない。唯、そばにいてくれと泣きじゃくる。

 小さな腕の何処から、そんな力が湧いてくるのかと驚く程の強さで

俺の首にしがみつくから、抱き締めてやるしか出来ないから。

そっと回した腕の中で、静かな寝息を立て始めるまで。

 「俺の事、好き?」

確かめるように、小声でつぶやく。涙を零すその泣き顔が可愛くて。

 「愛してるよ」

何度でも囁き続ける。普段なら言わない言葉。

何度囁いても言い足りない。それでも泣いているお前の心には残らない。

 きっと明日になったら、今日の事なんか忘れたような顔でお前は

目を覚まして笑うんだ。窓から差す太陽と同じ眩しさで。

 そして、俺は又、いつもの俺に戻るだけの事。

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