|
クリスマスの夜を過ごしたい人
「寒くなったな」 不意に、聞き慣れた声が背後から聞こえた。誰に問いかけた訳でもなく独り言のような そんな感じの言葉だったけれど。 「サイファー、久しぶりね。今、帰って来たの? 確か、隣街に行ってたって」 久しぶりに見るその顔に、喜んでいるのを悟られまいと表情を少し硬くする。 「さっきな。それよりお前、休暇は帰らずにここにいるんだって」 「帰っても、誰も喜ばないし、ここにいる方が、それに・・・」 「んっ? 」 言いかけた言葉は──ここにはあなたが居るから── 言葉になりかけて、肩をすくめて笑って答える私。 「何でもない、サイファーはどうせあいつと過ごすんでしょ」 「まっな。休暇が上手く続けばの話だけど」 「お忙しいシード様ですからねぇ」 「仕方ないさ、気に入ってやってんだから、風神・・・」 「えっ? 」 不意に小さな包みを放り投げてきたサイファー。 「やるよ、クリスマス・プレゼントだ」 「いいの? もらっても・・・でも」 「友達にプレゼントをやるのは変か? 」 「友達・・・そうね。うぅん、変じゃないよ、サイファー」 「さてと、行くか。あんたに似合うと思ったんだ」 そのまま、背中を向けて去っていくのを見ていたら、 「待って、サイファー 」 振り向いたその瞳をじっと見ながら──やっぱり、好きなんだ──と再確認しながら。 「あたしも買ってあるんだ。今度、持っていくね」 普段はきついその瞳が、優しくクシャクシャと笑うのを見ながら、 手の中の包みをギュッと握りしめた。 「俺にか? 悪いな。じゃっまたな」 その後姿を見送って、誰もいなくなった廊下の霞で包みを開いた。 入っていたのは、プラチナの先にスモーキー・クォーツのティァーズ・ドロップが 付いているピアスが入っていた。 「これ・・・ずっと前に、店の窓越しに見てたのを、知ってたんだ」 自分のためにピアスを買うのは、自分へのご褒美を込めてと、 唯一身につけれるアクセサリーと言う意味もあった。 もうすぐ、ガーデンが一面の銀世界に変わるクリスマス。 今年の冬も厳しいとテレビのニュースが伝えていた。 一人で過ごすクリスマスを淋しいとは思わなかった。本当に一緒にいたい人と一緒 に過ごせないのなら一人の方がずっと良かった。 クリスマスの夜、白い雪を並んで見ているのはあなたでいて欲しかった。 ここに今、誰もいなくて良かった。 誰も・・・。 |
