加同協ニュース №28     03/3/19
3月7日 加同協第12回勉強会 報告
3月7日、加茂名小学校多目的ホールにおいて第12回勉強会を開きました。約100人が参加し、NPO (特定非営利法人) の奈良人権情報センターの相談員福岡ともみさんの講演を聞きました。
すさまじいDV・児童虐待の現実。息を呑みながら聞き、このような現実を前に、いかに子どもたちの人権を守っていくのか、人ごとではなく考えさせられました。
講演要旨
○初めに
NPO (特定非営利法人) の奈良人権情報センターからやってきた。ドメスティック・バイオレンス (DV) について少し話をしたい。もともと部落問題からDVに入っていった。人権の視点からDVを見たい。
自分は父親が部落出身で父からは 「部落民だ」 と言われ、部落出身でない母からは 「違う」 と言われ、自分のアイデンティティーをどこにおくかという問題をずっと抱いてきていた。しかし自分の生き難さは 「女性である」 ことにあると発見した。
DVに取り組む中で、自分はどこに属するということではなく 「福岡ともみというかけがえのない存在」 と思えるだけでいいとわかってきた。 ※DVとはドメスティック・バイオレンス=D (家庭内) V (暴力) のこと。
○相談の現場から
91件のうち約4割 (39件) がDV、その他、児童虐待の問題や在日外国人差別の問題も多いが部落の問題は2年間で1回もなかった。
○DVの定義
被害者の多くが女性である。相談のうち1件以外は全部女性が被害者。一般には200人に199人までが女性。しかしアメリカの場合には同性愛のDVのサポートプログラムがすでにある。どんな相談がよせられたかというと・・
・身体的な暴力
顔面を殴られる、鼓膜を破られる、眼底出血、背中を蹴る、むち打ち症に される、包丁を投げる、振り回す、ものを投げつける。机をひっくり返す。 食器をわる、望まない性交、中絶の強制
・言葉によるさげすみ
・行動の制限(昼間に不定期に電話を入れる)
 下駄箱の靴の順番やクローゼットの服の順番をチェックする。
・子どもを殴る。妻の大切にしているものを壊す。ペットを殺す。
・朝の出勤の準備を全部妻がしないと気がすまない。
・お金をいれない
○加害者の男性の職業には、公務員、サラリーマン、教員、無職・・
 年令、国籍、宗教、社会的地位などには全く関係がない。
○同様なことをされているが、一つとして同じケースはない。
共通していることは妻が逃げられないこと。夫は妻が傷ついていることに気がついていない。離婚されるとは全く考えていない。ひどい加害ケースでは、その父親から夫が殴られてきた場合が多い。
アルコール依存や薬物依存とは直結しているわけではない。アルコール依存症だからDVというわけではない。夫は妻の女性役割には厳しく、子どもたちは母が殴られる現場にいる。
奈良県はDVの相談件数が増えてきている。女性の認識も変化してきた。相談してくる女性は30代の方が多い。子どもが小さいうちに逃げ出そうとする場合が多いからだと思われる。
逃げられない理由は、女性が一人で子育てして稼げるだけの力がない場合やジェンダーの問題 (夫をケアすべき存在としての妻役割) がある。また心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の状態に陥っている場合もある。
○大切なことは
・逃げる場所は必ず確保しておくこと。孤立しない・孤立させない。
・警察に連絡すること。(警察が介入してくると暴力がとまる場合が多い。暴 力夫は権威に弱い場合がある。警察の力ばかり借りているのはよくないのだ けれども・・・・。)
○児童虐待について
(ケース1)
離婚した妻・・・・内縁関係の夫と一緒に子どもに虐待をした。
医者からの通報で逮捕。硬膜(脳の)出血、熱傷、多発性皮下出血、肝機能 障害など
虐待されていたのは、生後8ヶ月の子ども。
母は,何度も止めようとしたと主張するが、たとえそれがその通りであっても、実父が損害賠償請求はできないのが実情。どんな障害が出てくるか固定しないので損害賠償ができない。その子がなぜそんな目にあわなければならないのか。
8ヶ月の子どもにどんなことが起こったかが証明できない。それに対して何も方法がない。子どもが、自分が大人になったとき、どんな思いをするのだろうか。体験を言語化できないまま、記憶だけが残るのが大変こわい。
(ケース2)
天理市の病院で子どもを薬殺未遂しようとしたとされる女性の件。裁判を傍聴してきた。甲斐甲斐しく子どもの世話をするふりをして殺そうとした (ミュンヒハウゼン症候群) とされているが、裁判の過程で父親はアルコール依存症でDV加害者だったこと、少女時代に性虐待をうけていたことが明らかになる。
DVの渦中で育ち性的虐待も受けていた被告。公判途中で意識を失って倒れることも。また子どもに薬物を飲ませた時の記憶も飛んでしまっている。乖離性 (かいりせい) 人格障害とも精神鑑定で言われていた。(これはひどくなると多重性人格障害を発症。自己防御機能がはたらくためにおこる。)
幼いころに受ける心の傷については、裁判所も検察官も弁護士もなかなかわかってくれてはいない。
(ケース3)
学校の先生による子どもの虐待の問題。そのうちの2件は、部落出身教師だった。ヘップサンダルで叩いたり、足を引っかけて転ばせたり、テストを水平に投げ返したりする。一人だけをかわいがり他をいじめる。
管理職には、子どもの言うことと私の言うこととどちらを信じるかと詰め寄る。学校に行けない子ども (発熱,嘔吐) が出てくるようになった。保護者のがんばりで担任を外すことで決着。去年も別な小学校から評判の悪い先生のことで相談があった。
最近は、不適格教員の指導に関する法改正ができており、子どもの権利を守る体制ができつつあるが子どもの主体性を育むというものとしてはまだまだ。
○DVについて (復習の意味で)
このようなケースを相談として扱っていると相当つらい。ある意味、彼女たちの体験をすいこむことがある。自分の心に隠してきた辛い体験が思いだされることがある (フラッシュバック)。そうならないために、スタッフ3人で必ず話し合うことにしている。
うちのところはなぜか重たいケースが多く、解決するために時間がかかることが多い。実際にカウンセリングする場合もあるし、行政の窓口に一緒に行く場合もある。部落解放運動するというのとサポートするというのはやや違う。
また阪神淡路大震災で 「もうこれ以上がんばれと言わないで」 と言っている方がたくさんいた。精神科医の小西聖子 (たかこ) さんは 「がんばれ」 と励ましている人たちは、自分がそういう姿を見たくないために言っているだけではないのかと指摘。
サポートするときに自分自身のために言っているのか、その人のための言葉を考えて言っているのかを、私たちはよく考えなければならない。
○被害者と加害者の回復
もっとも大切なことは 「傷ついたこと」 「傷つけたこと」 がわかること。
DVという言葉だけは知っていた。DVに悩み、結局夫を殺害してしまった妻 (A子さん) の裁判の傍聴をして初めてDVがわかった。一人の友人は傍聴をして、父が母を殴っているとこを見てきて 「これは部落差別が悪いんや、貧乏が悪いんや」 と思ってきていたが、そうではなくDVだったのだとわかった。
DVというのは女性への暴力という構造の中にあって、アルコール依存症やいろいろな問題が関係している問題である。これは人ごとじゃない問題だった。A子さんの問題は彼女一人の問題ではない。
「そんなに辛かったら、離婚したらいいでしょう」 と検察官は平気で言い放つ。できるくらいなら殺していない。傍聴席をたくさんの女性で埋めることで検察官に私たちの思いを表現した。
○彼女はなぜ逃げられなかったのか。
・説明 力と支配の車輪
現在の社会においては、一歩さがって夫や家を支えるのが女の役割という考えがまだ多い。暴力がふるわれている女性が相談にくるとすると、相談を受けた側は方向性 (こうこうしたらどう?) と言いがち。それだけでは暴力の中にもう一度押し込めてしまう危険性がある。
・暴力のサイクルの危険性
女性は不安なことばかり考えて行動が止まってしまう。そんなときに、夫が 「もう二度としないからもう一度考え直してくれ」 とやって来ると、また家に帰ってしまう。これをくりかえすと、サイクルの周期が早くなり暴力の度合いもすさまじくなる場合がある。
相談者は何回も同じ話を聞かなければならない場合が多い。これは大変な作業。相談というのはネットワークでやっていかないと、一人ではできない。一人ではなく、関係という概念で人権を考えていかなければならない。同じ話を何度も聞いて 「しんどいなあ」 と思う時に、どうしてそう思うのかという話し合いをサポーター同士でしなければならない。
○PTSDの問題
まず不眠の問題。寝られない状態になっている。DVに理解のあるお医者さんは少ないが、そういう人の所にいくべきである。発熱などもある。過覚醒・侵入-フラッシュバック (体験が言語化されていないために、そのままで記憶が瞬間冷凍されてしまう)・回避などの症状がある。これが進むと人間関係ができにくくなる。
また夫と自分の関係を他の人に当てはめてしまう人もいる。恐怖を通して、力で支配されている (こわい経験をしているので、相手に完全に縛られている) ので人を信用できなくなる。友達がいなくなる。孤立せざるを得ない所まで自分を追いつめる。相談者を渡り歩く被害者もいる。問題を起こす困った人と考えるのではなく、相談する側が連携をもって対応しないと解決しない。
日本の社会制度では女性が一人で子どもを育てていけるシステムがない。児童扶養手当は減額されており、離婚した場合、男性が養育費を払っていないケースが多い。父親に子育てに対する責任が希薄な場合が多い。繰り返すが逃げないのではなく、逃げられない。
親密な中でおこる暴力は生きる力をうばう。ありのままの自分でいいんだという感情 (自己尊重感) がそがれる。自己尊重感というものは、夫婦・恋人・地域・社会の中ではぐくまれていく。困難な状況であっても自暴自棄にならずに生きていける力の源泉が自己尊重感。被害者に相談していく力があると助かる。
殺人の現場を目の当たりにしても子どもたちは無表情だった。暴力が16年間続くと、子どもたちの感情をそぎ取っていた。暴力というのは、一つの結果 (人の心をぼろぼろにするという) を持っている。
近所の人はケンカの終わった時になかなか入っていけない。近所の人も気になって介入しようとしたが、介入の仕方がわからない。誰しもの心に無力感や絶望感がわきあがる
○ドメスティック・バイオレンスの加害者には,一つだけ特徴がある。
    ~「なぜ男は愛する妻をなぐるのか」 より~
①父から暴力をふるわれている (恒常的)。
② 「おまえなんて生まれてこないとよかった」 等、罵倒の言葉を父から言われる。
③母親は自分を愛してくれないと思っている。(母も父から暴力を受け子どもに気遣うことすらできないときがある)。
というような状況で育った男性にひどい暴力を繰り返す加害者は多い。
・妻に何を求めるか→母親のように自分を愛してくれ。聖母と娼婦を求める。社会が枠づけしている女性役割をしつこく強制する。
・「俺は親父のようになりたくない。俺は親父と違う」 という。父親への過大な評価。自分も同じようなことをしているにもかかわらず。
○加害者が変わるきっかけ
→子どもが見ているという緊張感・男性からのアドバイス
・DVに関しては女の言葉を言葉と思っていない。
・権威のある人の言葉に弱い。ものすごく聞く。
・周囲の男性が加害者を変える可能性がある。
・生き方のモデルとなるような男性の存在
○おわりに
あるお母さんと娘が相談に来られた。「お父さんを逮捕する法律ないん?」 と私に聞く。DVに関する法律は、被害者の保護命令はでるが加害者を逮捕する法律ではない。母は離婚に踏み切れない。母子家庭になる不安もある。自分や子どものことを考えると離婚することも大切な勇気なのだが、切なくなる話も多い。
公的な権力が家族のなかに入っていくことは余りおすすめするものではないが、現状は警察の動きで命が救われる。コミュニティで対応していけたらいいなあと思う。差別しない人間づくりではなく、NOを言える関係をつくることが大切である。
自分のことをきちんと主張できる関係が大切。奪われた力を取り戻す。被害者は弱い人ではなく必死で生きている。しかし、加害者を過大評価してしまい逃げる力をもぎ取られている。
人間関係の作り方を一から作り直す。その人の痛みもわかってあげること。立派な人間を作るより共感し合える関係を作っていって欲しい。「NPOなら人権情報センター」 の電話番号が新聞に載り一年近く大事に持っていてくれて去年電話をくれた人がいた。
私たちの活動は非常にささやかだが、一人でも命を救えたらいいのではないかと考えている。いろいろな壁にぶつかっているが、私は一生この活動を続けていくと思う。
このあと、若干の質疑応答があり、また閉会後、福岡さんを囲んで話し合いをもちました。加同協も、今後の方向性をどう定めていくのか、名称の問題も含めて考えていきたいと思います。 
03/3/17